1. 和牛、そして黒毛和牛とは何か

日本でもスーパーマーケットなどでタスマニアビーフやアメリカンビーフなど海外の牛肉が簡単に手に入るが、では、国産牛とはいったいどのような牛肉なのだろう。また、その中でも良質な肉の代名詞として有名な黒毛和牛とは何なのか。国産牛と黒毛和牛を中心に、牛肉の定義について明らかにする。
- 国産牛とは
国産牛とは、文字通り日本産の牛のことであるが、生まれたときからずっと日本で肥育された牛とは少し異なる。正しくは、日本で3ヶ月以上にわたって肥育された牛、もしくは各国を巡った牛でも日本で肥育した期間が一番長ければ「国産牛」と呼ばれるのである。牛の出生地や品種に関わらず、日本での肥育期間と肥育された土地が基準にかなっていれば「国産牛」と呼ぶことができる。 - 和牛とは
国産牛と和牛は、似て非なるものである。和牛と名乗ることが出来るのは、明治時代以前から日本で独自の基準をもって交配、肥育された牛だけだ。現在、「黒毛和牛」「褐毛和牛」「無角和牛」「日本短角種」の4品種だけが和牛として認められている。つまり、「国産牛」であっても「和牛」とは限らないし、「和牛」であっても「国産牛」かどうかは産地によるという、まったく別の分類基準だということである。 - 黒毛和牛とは
和牛の代表格である「黒毛和牛」は、和牛の9割以上を占め、最もたくさんの頭数が肥育されている。遺伝の影響もあり、霜降り具合や色艶、肉の締まり具合も優れている。
2. 国内三大和牛、神戸牛、松阪牛、次に来るのは?

最高級品種の黒毛和牛は、産地によってブランド名が異なる。なかでも、日本三大和牛と言われているうちの2つが、三重県が誇る「松阪牛」と兵庫県の「神戸牛」だ。3つ目の日本三大和牛については、諸説あるが滋賀県の近江牛と山形県の米沢牛が争う形になっている。ここではまず、松阪牛と神戸牛を取り上げる。
- 箸でも切れる柔らかな肉質「松阪牛」
松阪牛と名乗るには、未経産の雌牛であることのほか、定められた肥育地や期間など、厳しい基準をクリアしなければならない。肉質はお箸で切れるほど柔らかく、脂肪の融点が低いため口溶けは滑らか、肉眼では見えないくらいサシがきめ細かく入っている。赤み部分は旨味が凝縮された濃厚な風味。深みの中にも甘さも感じられる香りが特徴だ。 - オバマ前大統領も「食べたい」と言った"神戸ビーフ"
米国のオバマ前大統領が2009年に日本を訪れた際、「神戸ビーフを食べたい」と注文したほど外国人にも人気の牛肉。正式には、「但馬牛」という品種の牛を神戸ビーフと呼んでいます。1868年に神戸港が開港し、海外との交易が盛んになって以来、農耕用に使われていた但馬牛が徐々に食用として供されるようになりました。今では、但馬牛の繁殖や肥育地、格付けなど厳格な基準が定められています。脂肪の融点が低く、赤みの繊維が細かいため、とろけるような食感で、うまみ成分のイノシン酸が豊富なことが科学的に証明されています。
3. 三本指に入るのは米沢牛?近江牛?

松阪牛と神戸ビーフに続き、我こそが優秀な黒毛和牛だと言って譲らないのが米沢牛と近江牛だ。どちらも立派な黒毛和牛であることは間違いないが、それぞれどのような特徴があるのだろうか。
- 山形県の南部、美しい山々と湧き水で肥育される「米沢牛」
山形県が誇る米沢牛は、明治時代にある英国人教師が来日して食したのが最初だと言われている。「米沢牛」と呼ばれるには、肥育地はもとより黒毛和牛の未経産牛であることなど細かな基準が設けられ、それらをすべてクリアしたものだけが米沢牛と認められる。基準のなかには、放射性物質全頭検査において、放射線が不検出(定量下限値 25Bq/kg)ということも含まれている。焼肉はもちろん、ステーキやしゃぶしゃぶにも適しており、肉の甘みと旨味が混ざり合ってジュワ~っと広がる。 - 400年以上の歴史に育まれた滋賀のブランド牛「近江牛」
滋賀県が誇るブランド牛「近江牛」には、400年以上の歴史があるという。近江牛の歴史は、彦根藩主の井伊家が農耕用として使えなくなった牛を解体し、味噌漬けにして「反本丸(へんぽんがん)」として幕府などに献上していたことに始まる。実際に近江牛としてブランディングが始まったのは1951年のこと。それは日本初のブランド牛の誕生でもあったという。
結論
最高級和牛とは何なのか。日本だけでも約300あるというブランド牛。きめ細かい霜降り肉の人気をよそに、健康ブームの影響で赤身肉にも注目が集まっている。将来、最高級と言われる牛肉の基準は変わるかもしれない。自分自身の眼で見て、舌で味わって、ブランドに関わらず、本当に旨い牛肉とは何なのか考えたい。