1. なぜカレーは一晩寝かせないほうがいいのか。

結論から言うと、カレーは一晩寝かせないほうがいいという説には一理ある。寝かせている間にウェルシュ菌という食中毒を引き起こす菌が増殖することがあるのだ。ウェルシュ菌について説明する。
■ウェルシュ菌とは
加熱すると死滅する菌が多いのに対して、ウェルシュ菌は熱に強いという特性を持っている。特に、殻のような芽胞と呼ばれる状態になることがあり、芽胞は加熱しても100度で60分以上加熱しても絶対に死なないと考えられている。また、ウェルシュ菌は酸素を嫌うため、カレーや煮込み料理など粘り気のある料理の中で繁殖しやすい。そのため、寸胴鍋など深い鍋の底に近いところほど酸素が薄く、ウェルシュ菌の温床になる可能性が高くなる。カレー以外では筑前煮や煮込みハンバーグでもウェルシュ菌の食中毒にかかることがある。また、ウェルシュ菌は43~45℃で最も繁殖しやすくなる。そのため、料理に粘り気があり、かつ量が多いと温度が下がるのに時間がかかり、菌が増殖しやすい環境が作られる。つまり、深鍋で作られるカレーは、ウェルシュ菌が増殖するのに最高の環境なのだ。カレーやシチューを大量に作ることが多い給食などで菌が繁殖しやすいため、この食中毒は別名"給食病"とも言われている。一時に大勢の人が発症する危険性が高い。家庭での発症は比較的少ないと言われている。
2. ウェルシュ菌による食中毒、症状と対策

ウェルシュ菌はどこにいるのか、手洗いでは防げないのか。また、感染して発症するとどのような症状が起きるのか。症状と対策について解説する。
■ウェルシュ菌はどこにいるのか。
ウェルシュ菌は健康な人や動物の腸内にもいる常在菌である。土壌や下水、肉や魚、野菜にも付着している常在菌なのである。ただ、発症にいたるには、多量の菌が必要なので、食品の保管方法に気をつけ、また、再加熱によって発芽細菌を殺菌し、毒素を活性化させないようにするとよい。
■ウェルシュ菌の食中毒による症状とは
ウェルシュ菌による食中毒の主な症状は、下痢や腹痛である。嘔吐や発熱にいたることは少ないが、時に重篤な症状に陥ることもある。
■ウェルシュ菌を増やさないようにするには
ウェルシュ菌は、温度が下がっていく過程でも増殖する。43度~45度というのは芽胞が休眠状態から目覚める温度だ。まず、酸素を嫌う性質を利用して、よくかき混ぜながら鍋底にも空気を含ませる。次に、底の浅い容器に移して、保冷剤や氷を下にあて、かき混ぜながらできるだけ早く冷やして粗熱を取る。常温では保存せず、冷蔵庫や冷凍庫で保管する。冷蔵庫で保管しても菌は徐々に増殖するため、早めに食べきってしまいたい。
3. カレーは一晩寝かせたほうが美味しい?

カレーは一晩寝かせたほうが美味しいというのは、本当なのだろうか。実は、これも本当のことなのだ。
- コクが生まれる
肉や魚、野菜には旨味や甘みなど"コク"のもととなるものが、タンパク質や糖質、アミノ酸が絡み合うことで引き出される。 - 熟成する
一晩寝かせることで、いったん冷まして、食べる前に温めることになる。その過程で熟成が進み、旨味が増す。 - 味に奥行きが出る
カレーはガラムマサラなどのスパイスを数種類ブレンドして作るが、予熱で火が通るうちに、スパイス全体が調和して深みのある味わいになる。 - ブイヨンが具材に染み込む
カレーにはスパイスの他にブイヨンが入っている。ブイヨンは日本料理でいう出汁にあたるので、ブイヨンが時間の経過とともに具材に染み込み美味しくなる。
旨味やコク、一晩寝かせたほうがなんとなく増えたように感じても、実際はどうなのか。よほど自分の舌に自信がない限り断言はできない。そこで、本当のところはどうなのか、AISSY株式会社が慶應義塾大学と共同研究して開発した味覚センサー"レオ"を使って実験した結果がある。味覚センサー"レオ"は、甘味や酸味、塩味、苦味、旨味を数値化して表現できるセンサーだ。その結果、一晩寝かせたカレーの旨味やコクは、できたてのカレーより勝っているということが分かった。
結論
一晩寝かせたほうが美味しくなるが、寝かせ方によってはウェルシュ菌が増殖して食中毒になる危険性があるカレー。夏場は特に注意が必要だが、春もウェルシュ菌の食中毒にかかることがあるとされている。できるだけ菌が増えない工夫をして保管したい。