1. あずきと日本の関係
あずきの歴史
おはぎやぼた餅の原料でもある小豆の歴史をまずは紐解いていこう。その歴史はかなり古く、世界最古の薬学書に解毒剤として用いられていたとの記述があるほどだ。日本に伝来したのは、3世紀ごろ。そもそもは中国同様、薬用として使われていた。あずきが、あの甘い餡へと変身を遂げたのは奈良時代に砂糖が伝わった後のこと。
餡とあんこ
餡は、元来「餅や団子の中に入れるもの」という意味。中国から伝わった当初の餡は、肉や野菜を調味したものだったと言われている。その後、禅宗など、肉食を禁じられた僧侶たちが、前述の餡に変わるものとしてあんこを生み出したという説が残っている。当初は、砂糖は貴重だったため、あんこも塩味がベーシックだったよう。江戸時代中期になると砂糖入りのあんこが浸透していった。
2. おはぎとぼた餅
おはぎやぼた餅と聞くとお彼岸を思い浮かべる人も少なくないだろう。そもそもお彼岸に食べられるようになったのも古くからの習わし。日本では昔から「赤」は、魔除けの効果があるとされてきた。あずきはその代表格で、赤飯にしたり、様々な祭事に使われてきた。さらにコメは五穀豊穣の象徴。両者を合わせたおはぎやぼた餅は、祭事に欠かせない存在だったのだ。その名残で、現在でもお彼岸におはぎやぼた餅が食べられているのだ。
味に違いはない?
おはぎ、ぼた餅ともに蒸したり、炊いたもち米を潰し、丸め、その周りにあんこを纏わせた和菓子のことを指す。材料が同じなので、作られているお店ごとの差はあれど、味に大きな差はない。それでは一体、何が違うのか?
3. おはぎとぼた餅の呼び分け
季節によって変わる名前
おはぎとぼた餅は、現在では様々に呼び分けられている。地方や地域ごとに、どちらかの名前で呼ばれていることが多い。また、つぶあんとこしあん、もち米とうるち米などで呼び分けられたり、きな粉をあしらったものをぼた餅と呼んだり...。全国共通の呼び分けは存在しない。しかし、古くは季節によって呼び分けられていたという説がある。
春と秋の呼び名
古くから、日本の文化に深く関係してきた四季。おはぎ、ぼた餅の呼び分けにもその四季が関係するという説がある。春の花として知られる牡丹。その花と似ていることから、牡丹餅と呼ばれるようになり、それがぼた餅に変化。対して、秋の花として知られる萩の花。その花と似ていることから、萩餅と呼ばれるようにそれがおはぎへと変化していった。すなわち、春はぼた餅、秋はおはぎと呼び分けられることになる。
夏と冬の呼び名
夏と冬には、花とは異なる呼び名が存在する。おはぎやぼた餅は、杵で餅をつかず、潰して作られる。餅をついたのがいつかがわからないことから、「搗き知らず」と呼ばれていた。その語源からの言葉遊びで、夏は着き知らずと掛け、夜船(夜に船が着いてもわからないから)。冬は、月知らずと掛け、北窓(きた窓から月は見えないから)と呼ばれるようになったとされる。この言葉遊びのセンスは、日本固有のもの。美しい四季があり、その情景を和歌にのせて歌うその文化あってこその、言い回しだ。
結論
現在では、呼び分けられることは少なくなったおはぎとぼた餅。古くはとても日本らしい呼び分けが存在したことがわかった。お彼岸の季節を迎えたら、古都に思いを馳せながら、おはぎやぼた餅を食べるのも粋かもしれない。