1. そもそものハヤシライスとは

ご飯と一緒に出される茶色いソースのハヤシライス。定義はあるのだろうか。
実はあいまいな定義
講談社による定義は「薄切りにした牛肉とたまねぎを炒めてブラウンソースで煮込み、飯にかけた洋風料理」。実際の現場ではドミグラスソースやトマトソースを使うことが多いようだ。ポイントは薄切り牛肉、米にかけるという2点にある。
ハッシュドビーフの謎
ハヤシライスと同様、薄切りにした牛肉をドミグラスソースで煮込んだ料理として、ハッシュドビーフがある。実はハッシュドビーフ自体はもともと、西欧の料理なのだが、日本で供されるハッシュドビーフとは趣が全く異なる。ちょうど、インドのカレーが日本で独自のカレーになったのと同様だ。西欧のハッシュドビーフは、細かい刻み野菜と肉の煮込み料理である。日本のハッシュドビーフは海外の物とは別物として世界で評価され、愛されている。ハッシュドビーフとハヤシライスは「米の有無」程度で実に単純な差だ。
2. ハヤシライスの歴史

元々のハッシュドビーフが日本でハヤシライスに変化したのには、どのような経緯があったのだろうか?
実はカレーライスより古株!
ハヤシライスと似た形態であるカレーライスが初めて出回ったのは明治4年頃。ハヤシライスの原型はそれより前から存在したようで、どうやらカレーライスより古株のようだ。ハヤシライスの肉と言えば牛肉だが、当時の日本では牛肉食文化が根付いておらず、食べると「早死にする」からハヤシライスだったと言う不名誉な噂もある。しかし、現在一番有力なのはハヤシさんが考案したという人名説だ。
夜食として出された
ハヤシさんの正体は明治2年にあの丸善を創業した早矢仕(はやし)有的(ゆうてき)である。丸善に勤める丁稚(少年見習い)の夜間学校をしていた早矢仕氏は、少年の栄養を考えて肉と野菜を煮込んだものを米にかけ、夜食として出してあげたのだそうだ。ちなみにドミグラスソースが日本に入ったのは明治30年頃だ。早矢仕氏は醤油や味噌で煮込んでいたが、これとドミグラスソースが出会ったことで日本独自の「ハヤシライス」に変化して今に至った...というのが現在の定説となっている。醤油味や味噌味のハヤシライスというのも衝撃だが、洋食を食べ慣れない日本の子供達に食べ慣れた味で滋養の有る肉を食べさせたいという早矢仕氏の愛情を感じる誕生秘話である。
3. 似ているけれど違う食べ物

ハッシュドビーフ以外にもハヤシライスと類似の食べ物が多くあるが、どんな物があるのだろうか。
ビーフシチューとの違い
ビーフシチューは牛肉・玉ねぎ・人参・ジャガイモ等をブイヨンで長時間煮込み、ドミグラスソースで味付けする。最大の違いは玉ねぎの甘さが際立つハヤシライスに比べ、肉や野菜が大きな塊で使い、赤ワインを使うことで甘さ控えめな点だ。
ビーフストロガノフとの違い
ストロガノフは人名で、ロシア料理である。食材はビーフシチュー同様大切りで、仕上げにサワークリームが入るので酸味が強く、白っぽい見た目になる。
ボルシチとの違い
こちらもロシア料理で、具はハヤシライスや、ビーフシチュー、ビーフストロガノフと大差ないが、ドミグラスソースは使わない。真っ赤な見た目は甜菜の一種であるビーツによるものだ。辛みは無いがビーフストロガノフより更に酸味が上で酸っぱさが強い。
結論
海外がルーツのビーフシチュー等は、具が大きくじっくり煮込むのが定番である。それに対しハヤシライスは多くの野菜や牛肉が薄切りにされている。他の類似料理より酸味が控えめで、子供の好む甘みが際立つ。ドミグラスソースが一般的でなかった過渡期の名残かトマトソースがベースのことも多いようで、給食で人気なのも納得の味付けだ。元々が食欲旺盛な年少の働き手たちの為に考案された、愛情にあふれたメニューなのである。