1. 油揚げは何を揚げたもの?

油揚げは何を揚げたものなのか、まずはその答えから見ていこう。
豆腐を揚げたもの
油揚げとは豆腐を薄く伸ばして揚げたものだ。厚揚げに対する「薄揚げ」のほか、単純に「揚げ」と呼んだり「稲荷揚げ」や「狐揚げ」と呼んだりなど、さまざまな呼称がある。
以前は「油抜き」が一般的だった
従来の油揚げは、使う前にお湯に通すなどして「油抜き」をするのが一般的であった。古い油を使うなどしていたため酸化しやすかったのだ。近年では良質の油が使われるようになったことから、そのまま使うレシピも増えた。
2. 油揚げの原料と作り方

油揚げがどのようにして作られるのかを見ていこう。
原料は大豆
お伝えしたように油揚げは豆腐から作られる。つまり原料は大豆である。
油揚げの作り方
大豆をひと晩水に浸けて膨張させたのち、細かく砕いて液状にする。それを大釜で煮てから豆乳とおからに分け、豆乳ににがりを加え固めて豆腐を作る。このとき、普通の豆腐とは異なり油揚げ用は豆乳の濃度を薄めにする。そうしてできた豆腐を、薄く切って水を抜いてから揚げると油揚げが完成するというわけだ。
3. 油揚げの栄養

続いて、油揚げにはどういった栄養素が含まれているのかを見ていこう。数値はいずれも文部科学省「食品成分データベース」(※1)によるものだ。
たんぱく質が豊富
大豆が「畑の肉」といわれるゆえんは、良質のたんぱく質を多く含むことにある。たんぱく質はアミノ酸から構成されるが、大豆はヒトの体内で合成できない必須アミノ酸をバランスよく含んでいるのだ(※2)。油揚げ100gあたりには、そのたんぱく質が24.9g含まれている。
カルシウムも豊富
意外かもしれないが、油揚げにはカルシウムも豊富に含まれている。カルシウムは人体にもっとも多く含まれるミネラルで、ご存知の通り骨や歯を形成するのに欠かせない栄養素だ(※3)。牛乳100gあたりのカルシウムが110mgなのに対し、油揚げには320mgも含まれている。
ただしカロリーは高い
油揚げは揚げてある分、豆腐よりもカロリーが高くなる。一般的な木綿豆腐100gあたりのカロリーは80kcal程度だが、油揚げは100gで398kcalと5倍近くにもなる。カロリーを少しでも減らすならお湯に通して油抜きをするなどしよう。
積極的に摂取したい食品である
油揚げにはまた、強い抗酸化力を持つ「大豆サポニン」や脳機能を活性化させる「レシチン」、女性の更年期障害を改善したり骨粗しょう症を予防したりする「イソフラボン」も含まれる。便利な食材というだけでなく、体の健康を維持するためにも積極的に摂りたい食品である。
4. 油揚げの選び方と保存方法

ひと口に油揚げといっても、いろいろな種類がある。選び方や保存方法を覚えておこう。
油揚げの選び方
スーパーなどでよく見かける柔らかい油揚げは「薄揚げ」、肉厚でしっかりしたものは「手揚げ」などと呼ばれ、煮物や鍋物向きである。また、いなり寿司用に油揚げの中が開いてあるものもある。また油揚げは徐々に酸化していくため、選ぶときはとにかく「新しいもの」がよいだろう。
油揚げは冷凍保存が可能
通常は冷蔵保存することが多い油揚げだが、実は冷凍保存も可能だ。使いやすい大きさにカットしてからポリ袋などに入れて密閉し、冷凍庫で保存すれば2週間くらいは使える。水分が少ないため解凍せずにそのまま使うこともできるし、室温で解凍するにしても数分待つだけでよい。
5. 油揚げの歴史

油揚げの歴史についても触れておこう。
庶民の間で定着したのは江戸時代
油揚げは歴史ある食材だ。江戸時代初期の文献にはすでに油揚げの名が登場している。このことからも、庶民の間に定着したのは江戸時代と考えられている。だがこの頃の油は高級品で、主に明かりをともす灯明のために使われていた。そのため、揚げ物を食べることができたのは身分の高い武士や僧などに限られていたという。
江戸時代中期になり、ようやく庶民の間にも食用油が広まった。江戸時代初期は胡麻油が主流だったが、そののち菜種油が一般的に使われるようになったという。油が身近なものとなり庶民の間で流行したのが、南蛮から伝わった「天ぷら」である。同じく人気であった寿司やそばに比べ、天ぷらは味が濃厚で腹持ちが良く、当時の人々に大変好まれた。
江戸時代中期になり、ようやく庶民の間にも食用油が広まった。江戸時代初期は胡麻油が主流だったが、そののち菜種油が一般的に使われるようになったという。油が身近なものとなり庶民の間で流行したのが、南蛮から伝わった「天ぷら」である。同じく人気であった寿司やそばに比べ、天ぷらは味が濃厚で腹持ちが良く、当時の人々に大変好まれた。
油揚げは天ぷらの代わりに考案された
豆腐から作る油揚げは、天ぷらの変わり種として考案されたといわれている。油揚げの値段は江戸時代の頃も安いうえ豆腐よりも日持ちするため、便利な食材として庶民の間に広まっていったのだろう。油揚げは今も昔も変わらない、家計に優しく料理を楽にしてくれるお助け食材なのだ。
6. 各地に伝わるご当地油揚げ

油揚げが江戸時代に庶民の間に広まったのち、各地で独自の製法や形ができるなど「ご当地油揚げ」が生まれ、現代にも伝えられている。最後に、有名な油揚げをいくつか紹介しよう。
京揚げ
京料理に欠かせない、京都に伝わる京揚げは上品な味が特徴だ。料理でたっぷり使えるようにと、通常の油揚げよりもサイズがずっと大きい。
栃尾油揚げ
こちらは新潟栃尾の名物だ。大きいだけでなく、厚さが3cmほどあり厚揚げと見紛うほどである。手揚げされたあと串に刺し、吊るして油を切る製法が今も受け継がれている。そのため小さな穴が空いているのも栃尾揚げの特徴だ。
松山揚げ・南関揚げ
愛媛の松山揚げや熊本の南関揚げのように、パリパリに乾燥させた油揚げもある。使いやすいように小さく切ってあるもの、あるいは大きな1枚の板のようにして売られているものもある。大きなものは、手で適当な大きさに割って料理に使う。
定義の三角揚げ
宮城に伝わる油揚げだ。定義山西方寺に向かう参道で売られている。三角形が特徴で厚揚げのように厚く、中は柔らかいのに外はカリカリという特徴がある。わざわざ三角揚げを食べに定義山まで来る人も多いようだ。
結論
油揚げが庶民の間に広まったのは江戸時代である。値段が安く使い勝手のよい油揚げは、昔も今も変わらない人気食材だ。豆腐と同じ大豆が原料で、良質なタンパク質を含むなど健康維持のためにもぜひ積極的に摂りたい食材である。日本各地にはご当地油揚げが存在し、作り方や大きさ、味に違いがある。現地に行く機会があったら食べ比べてみるのも面白いだろう。
(参考文献)
- 1:文部科学省「食品成分データベース」
https://fooddb.mext.go.jp/ - 2:厚生労働省「良質なたんぱく質 _ e-ヘルスネット」
https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/dictionary/food/ye-036.html - 3:厚生労働省「カルシウム _ e-ヘルスネット」
https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/dictionary/food/ye-042.html