1. なぜ動物の肉を使った鍋に植物の名前が?

さくら、ぼたん、もみじというのは、肉食が禁忌とされていた時代の隠語。由来は諸説あるが、「馬肉=さくら」は「咲いた桜になぜ駒つなぐ 駒が勇めば花が散る」という伊勢の端唄・都々逸から、「猪(イノシシ・シシ)肉=ぼたん」は「獅子に牡丹(牡丹に唐獅子)」という取り合わせの良いもの、絵柄として調和するものの例えから、「鹿肉=もみじ」は古今集「奥山に 紅葉踏み分け 鳴く鹿の 声聞く時ぞ 秋は悲しき」という歌からきているそうだ。
2. 見た目が決め手!のネーミング

みぞれ鍋は雪見鍋や淡雪鍋ともいい、大根おろしを雪に見立てた風流な名付け。同じように見た目で付けられた異名を挙げると、鍋の周りに土手のように味噌を盛る「(牡蠣の)土手鍋」、鮟鱇の肝が溶けて酒のどぶろくのように見える「どぶ汁」。スッポン鍋を「丸鍋」と呼ぶのは甲羅の形から。最近では豚肉と白菜を交互に挟み込んで鍋一杯に敷き詰めた鍋料理が、フランス語で「千枚の葉」を意味する「ミルフィーユ鍋」という名前で定着しつつある。
結論
最後にもう1つ紹介したいのが、ふぐ鍋の「てっちり」だ。関西では河豚を鉄砲(てっぽう)と呼ぶが、これは文字通り「当たると死ぬ」から。さらに九州の一部地域では、ふぐを棺桶という意味の古い方言「がんば」と呼ぶ。そんな物騒な名付けから雅やかな由来、「見たまんま」のネーミングまで、鍋の異名は様々。ときには日本語の豊かさに思いを馳せながら、美味しい鍋を喰うのもよいものだ。