1. 「ご賞味ください」の意味とは
まずは「ご賞味」という言葉と「ご賞味ください」の本当の意味を解説していこう。
賞味とは
ご賞味の「賞味」を辞書で調べてみると「味わって食べること」「ほめて食べること」とある。賞味とは、褒め称えながら食べるという意味と捉えることもできるのだ。
ご賞味くださいとは
「ご〜ください」で尊敬語に変換されてはいるものの、意味合いとしては「どうぞ味わって食べてください」という意味になり、どこか賞賛を求めているようにも感じられる。やや恩着せがましい雰囲気を伴う言葉なのだ。
2. 「ご賞味ください」の正しい使い方
「ご賞味ください」が単なる尊敬語ではないことがわかったところで、ここからは正しい使い方、シーンについて見ていこう。
「ご賞味ください」の使い方
日常会話で「ご賞味ください」ということは、非常に少ない。前述のとおり、どこか上から感が出てしまうからだ。実際には非常にこだわりをもっている店や専門店、企業などが、丹精込めて作った自信の商品を客に勧めるシーンで使われる。賞味とは、主に店や企業が使う言葉と覚えておくとよいだろう。
「ご賞味ください」が使われるシーン
たとえば、食材を取り寄せたときのパンフレットに「ご賞味ください」と書かれていたり、レストランが「自慢の新メニュー!ぜひご賞味ください」と宣伝したりすることが多い。口語というよりは、文章として見かけることが多いのも特徴だ。
3. 「ご賞味ください」の使い方の注意点
「ご賞味ください」は、自信をもって商品を勧める際に使う言葉であるがゆえ、使用には注意が必要だ。ここでは具体例を挙げて説明をしていこう。
目上の人には使わない
前述の説明にもあるように「ご賞味ください」は、上から目線と捉えられかねない言葉。このことから、目上の人には使わないのが適切である。失礼に当たるので、日常ではもちろんビジネスシーンにおいてはより注意したい。
手作りの物には使わない
上記と同様の理由で、手作りのものにも使うべきではない「ご賞味ください」。手作りのものを美味しく食べてくださいといわれたら、確かにいい気はしない。
手土産には使わない
手土産を渡すシーンで「ご賞味ください」といってしまった経験があるという人もいるかもしれない。手土産はそもそも、相手への感謝を込めた贈り物である。贈り物に対して、上からの発言や恩着せがましさは、いらない要素である。気をつけたい。
4. 「ご賞味ください」ではなく「召し上がってください」を使おう
「ご賞味ください」は、日常では使いづらい言葉といえそうだ。もし、言い換えるならば、どんな言葉がいいだろう。おすすめは、「召し上がってください」だ。「召し上がる」は、「食べる」の尊敬語。よく「お召し上がりください」と誤用されるが、これだと一般動詞の「お(ご)〜ください」の尊敬語と合わさり、二重敬語になってしまう。ただ、現在では慣習的に「お召し上がりください」も広く使われており、許容されている。
例としては、以下のように使う。
「つまらぬものですが、召し上がってください」
「温かいうちに、召し上がってください」
「つまらぬものですが、召し上がってください」
「温かいうちに、召し上がってください」
そのほか、「お口に合うと嬉しいです」と言い換えてもいい。
5. 「ご賞味あれ」の意味や使い方
「ご賞味ください」と似た言葉に「ご賞味あれ」が存在する。これは、「賞味」と「あれ」に分解することが可能だ。「賞味」は前述の通り。「あれ」は「ある(有る、在る)」の命令形で、「〜を願っている」というような意味合いだ。結果「ご賞味あれ」は、「味わって食べてくれますように」や「味わって食べてくれることを願っています」というような意味合いになる。どちらにしてもやや恩着せがましいので、友人や家族など、親しい間柄で使うのがベター。あえて、キャッチフレーズ的に使われることもある。
6. 「賞味」に関するさまざまな表現
ここからは、「ご賞味ください」以外に賞味を使う表現についてリサーチしていこう。
賞味させていただきます
「賞味させていただきます」と謙譲語にすると使うシーンは一気に広がる。たとえば、先方からお菓子などをいただいた際には、味わって食べる=賞味という言葉がぴったりくる。自分の動作なので、ごの接頭語は省き、へりくだったいい方にするために、させていただくをつければOKだ。
例としては、次のように使う。
「素敵なお土産をありがとうございます。賞味させていただきます」
「家族みんなで、賞味させていただきました」
「素敵なお土産をありがとうございます。賞味させていただきます」
「家族みんなで、賞味させていただきました」
ご賞味いただけます
こちらも日常的に使う言葉ではない。使うとするならば、レストランや企業が客に対して、商品を勧めるときだ。
例としては、次のように使う。
「本日の魚料理は、長崎産のアジをご賞味いただけます」
「いち早く、我が社の新商品をご賞味いただけます」
「本日の魚料理は、長崎産のアジをご賞味いただけます」
「いち早く、我が社の新商品をご賞味いただけます」
ご賞味にあずかる
「ご賞味あずかる」このような言葉はない。似たもので間違えるのであれば、「ご相伴にあずかる」だろうか。「ご相伴」とは「ごしょうばん」と読み、「相伴」とは「連れ立って行くこと」、または「正式な客の連れとして行き、もてなしをうけること」という意味。そもそもは、茶の湯で使われていた言葉らしい。謙譲語として使われることが多く、ビジネスシーンでも活躍をしてくれる。しばしば用いられるのは、「ご相伴にあずかる」だ。これは上司や目上の人が誘われた会食などに、連れて行ってもらうという意味である。ちなみに「預かる」ではなく、目上の人から恩恵を受けるという意味の「与る」が正しい。ひらがなで表すのがいいだろう。
賞味期限
賞味にまつわる言葉の中で、より身近なものに賞味期限がある。これはご存知の通り、企業や販売元が品質が変わらずに美味しく食べられる期間を明示したものである(※1)。味わって食べることができる期限と訳すこともできる。
ご賞味くださいの英語表現
英語での表現で近いのは「Please enjoy~」「Please appreciate~」などであろう。
7. 「ご賞味」と似て異なる「ご笑味」とは
笑味を辞書で調べてみると「粗末な品ですが、お笑い草にひとつ召し上がってください」という謙遜の気持ちを込めて使う言葉、とある。接頭語のごをつけてより丁寧にしたものがご笑味である。
ご笑味の使い方
ご笑味とご賞味の読み方は同じなので、口頭で使うとどちらかわからなくなってしまう。そのため、ご笑味を使うシーンは手紙やメールなど、文字化する場合に限られる。また、笑味はそもそもがへりくだったいい方なので、自分に対しては使わないのが普通である。
ご笑味とご笑納の違い
ご笑納は「笑ってお納めください」という言葉でご笑味と似たような雰囲気で使うことができる言葉。へりくだっているので、ビジネスシーンや目上の方に使ってもよいが、フランクな意味合いもあるので、使う場面に注意しよう。
8. 「ご賞味」と「ご笑味」の違い
ご賞味は、美味しく味わって食べてくださいという意味。ご笑味は、笑って食べてくださいという意味。この点が大きく異なるところだ。そもそも立ち位置が異なるので、使う相手や使うシーンも異なることになる。
使う相手の違い
ご賞味はおもに飲食店や企業が美味しく食べてくださいと伝える、すなわち店→人の構図だ。逆にご笑味はへりくだったいい方なので自分→人の場合が多い。ただし、ご賞味の場合については、ごの接頭語を取って語尾に変化を加えると自分→人に使うこともできる。
使うシーンの違い
ご賞味とご笑味、こうして文字にしてみると違いは明白だが、言葉にすると読み方が同じなので、どちらの意味で使っているのか判別ができない。またご賞味のほうが言葉としての浸透率が高いこともあり、言葉として耳にした場合はそちらの意味で取る人も多い。このことから、ご笑味は文面のみで使うのが一般的。同じような意味を口頭で使いたい場合は、「どうぞお召し上がりください」を使うのが正解だ。
結論
ビジネスシーンや目上の方に使ってよいのは、ご笑味が正解。ただし、こちらは文面上でしか活用できないので、口頭で使いたい場合は「召し上がってください」というのがよいだろう。ご賞味とご笑味の違いは、理解していないと失礼に当たることも多いのでしっかりと理解しておきたい。