1. 技術者として農家のサポートを
今でこそ、こだわり抜いた栽培方法を駆使し、精魂込めたトマトを育てている榎本さん。
収穫された野菜は実家の農園レストランをはじめとした多くの飲食店や高級料亭で食されているだけでなく、その農法自体にも注目が集まり、各所から視察や取材を依頼されています。
榎本さんの実家は、江戸時代から続く歴史ある農家。早くから有機農業や無農薬栽培に積極的に取り組んできたなかで、先代のお父さんが設立したのが「さいたま榎本農園」でした。とはいえ、当初榎本さんが描いていたのは、技術者として農家のサポートをすること。実際に、北海道酪農学園大学を卒業したあとは、埼玉県の公務員として農業技術職に従事していました。
2. 小さいころはパン屋さんになりたかった
榎本さんの子ども時代は、いわゆる高度経済成長期の余韻が残るころ。あらゆるものが海外から安く輸入され、全国的にも、仕事を求める人々が農村部から都市部へぞろぞろと流れていました。榎本さんは子どもながらに「農業が下に見られている」と感じていたといいます。
当時榎本さんはパン屋さんになることをを目指していた中、周囲から「どうせ実家の農業を継ぐんだろう」と決めつけられ、嫌な思いをしたことも...。様々な背景が重なり、ご自身が子どもの時は、農業へのイメージがあまり良くなかったそうです。
3. 若い世代に農業の楽しさを!
お父様が亡くなったことをきっかけに、実家の畑を継ぐことになり、「自分がやるほかにない」と重い腰を上げてはじめた農業。しかし今では、自分の3人の子どもたちをはじめ、未来を担う若い世代には農業によいイメージを持ってほしい──そんな強い気持ちが、榎本さんの原動力の1つになっています。なぜなら、他の誰でもなく自分自身が農業へのイメージで苦しんだことがあったからです。
「農業へのイメージが固まっていない小さいことから、農業の大切さや価値、そして面白さを知ることで、未来を担う子どもたちが持つ農業へのイメージをよくしていきたい」と考えた榎本さんは、少しでも多くの子どもたちに農業の価値や大切さを伝えられるよう教育活動を始めました。今は周りの人も巻き込んで、農業体験や教育を受けられる場をしっかりと継続可能な事業体にしていくことを目指し、力を注いでいます。
4. こだわりのKFT農法とは?
さて、榎本さんが各所から取材を受ける主なきっかけになっているのが、農園で取り入れている「KFT農法」という栽培方法です。
これは、建築部門の技術である遠赤外線を活用した「風の吹かない冷暖房システム」のことで、温風でハウス内の空気を温めるのではなく、いわばトマトの実を直接芯まで温められるような仕組み。榎本さんいわく「岩盤浴の中にトマトの苗があるようなイメージ」なのだとか。
これにより、ハウスの暖房効果は従来の温風機に比べ80%以上の省エネ効果を実現。約1.3倍の収穫量増に繋がり、実そのものもサイズアップしました。また、より少ないエネルギーで冷暖房が可能になったことにより、自然の春夏秋冬と同じように寒暖差をつけることができ、より甘いトマトが育つように!元技術職ならではの視点が、とことん活かされています。
5. 子どもたちの未来と地域貢献のために
今ではメディア取材も増え、「家庭内での子どもたちへの威厳も保たれています(笑)」と語る榎本さん。その言葉には、より多くの子ども、若者に明るい農業を伝えていきたい!という熱い思いが詰まっていました。
今後は、榎本さんに教わったおすすめのトマトの食べ方も紹介していきます。ぜひお楽しみに!
今回ご協力いただいた農家さん
榎本健司さん
さいたま榎本農園代表。北海道酪農学園大学卒業後、さいたま市の農業技術職として、農業政策・果樹試験栽培などの仕事を担当。現在は「KFT農法」を取り入れたトマト栽培で注目を集める。「若者にカッコいいと思ってもらえる農業」を目指し、農業体験・教育も積極的におこなう。