目次
1. すき焼きの卵の役割と短気

すき焼きにおける卵の役割には、どうやら江戸っ子の気の短さが関係しているようだ。すき焼きの歴史から、卵をつける理由を探っていこう。
早く食べるため
すき焼きが食べられ始めたのは明治時代の初期といわれ、当時は牛鍋と呼ばれていた。文明開化の影響で牛肉を食べ始めたが、それまで日本でよく食べられていたのは鴨鍋やどじょう鍋で、最後に卵でとじて食べるのが主流だった。欧米化とともに牛鍋が拡がったときも、最後に卵でとじて食べる習慣が残っていた。
ただ、気の早い江戸っ子は、鍋の最後に卵を蒸す時間を待つことができず、熱冷ましの意味もあって直接生卵につけて食べていたようだ。その習慣は牛鍋になっても変わらず、早く食べるためにお肉を直接生卵につけて食べていた。
余談だが、すき焼きの語源は農耕器具の鋤(すき)から来ているという説もある。すき焼きの始まりは江戸時代ともいわれており、当時は肉を食べることが禁じられていた。そのため、農作業の合間に鋤の鉄の部分を使って食材を焼いて食べていたそうだ。
材料も肉だけでなく、魚を焼いたり味付けが味噌だったりと、現在の形とはかけ離れていた。
2. すき焼きの卵の役割とアレンジ

次に、すき焼きにおける卵の役割や、地域のアレンジを紹介しよう。
味に深みをプラス
江戸時代初期に徳川綱吉が生類憐みの令を発令した頃、庶民の間では軍鶏鍋がよく食べられていた。軍鶏は脂が少なく淡白であったため、軍鶏の卵をつけて食べることで味に深みをプラスしていたといわれ、その名残が後に流行った牛鍋にも影響したようだ。
また、すき焼きは地域によって味付けや調理法が少し異なる。関東風のすき焼きでは、醤油を砂糖やみりん、酒で割った割り下で、肉や野菜を煮込む調理法だ。割り下のアレンジ次第で、お店や各家庭の味が出るといえよう。
一方、関西風のすき焼きは、まず肉を牛脂などで焼いてから醤油と砂糖を入れ、その後に野菜を加えて煮込んでいく。肉を煮るか焼くかという調理法は異なるが、卵をつけて食べる点に地域差はないようだ。
3. すき焼きの卵の役割と誤魔化し

最後に、すき焼きにおいて卵の役割には誤魔化しがあったことも触れていこう。
クセを弱くする
日本人は明治以降に欧米化の影響で牛肉を食べ始めたが、これまで食べてこなかった食材であったことから、特有の生臭さなどのクセにかなり抵抗があったようだ。そのクセを弱めるために、卵にくぐらせてから食べることで誤魔化したのである。ただ、誤魔化しとはいえ、牛肉の繊細で適度な霜降りや肉質のきめ細やかさ、柔らかさといった特徴と卵の相性はとてもいい。当時、牛肉がほかの肉よりも高かったことと卵の栄養価が高いことも相まって、すき焼きは高級な食べ物という印象もあったようだ。
なお、現在ではすき焼きの卵の代わりに大根やきゅうりをすりおろした、おろしダレも人気のようだ。また、卵をメレンゲにすると肉や野菜とより絡みやすくなる。白身が苦手な人にもおすすめだ。
生卵の白身が苦手な人は、白身を切るようにしてとくといい。箸でキレイに混ざらないときは、フォークで40秒ほど左右によく混ぜると白身が切れる。混ぜ方を少し工夫するだけで白身が切れ、生卵も食べやすくなるため、試してみてはいかがだろうか。
結論
すき焼きに生卵をつける理由を紹介した。卵の役割は日本の食文化や歴史的背景が影響しており、だからすき焼きに卵を使っていたのかと納得するものばかりだ。すき焼きに生卵をつける意味を想像しながら食べるのも、楽しみの一つとしてよいのではないだろうか。
監修管理栄養士:児玉智絢
経歴:女子栄養大学栄養学部を卒業後、管理栄養士免許を取得。食品メーカーの商品開発などを経験後、フリーランスとして栄養・健康分野の記事監修を中心に活動中。