目次
- ※1.農林水産省「日本の食文化に欠かせない『発酵』の世界」 https://www.maff.go.jp/j/pr/aff/2211/spe1_01.html
1. 発酵と熟成の違い

発酵と熟成は、イメージとして頭に浮かぶもののその違いが明確でないという方も多いだろう。まずは発酵と熟成、それぞれのメカニズムと定義を紹介する。
発酵の定義
発酵とは、「微生物によって有機物などの物質が分解され、その結果人間にとって有益な物質ができること」を指す。発酵に必要な微生物には、細菌やカビ、酵母などがあげられる。具体的な発酵の例には、酵母の作用によるアルコール発酵、乳酸菌による乳酸発酵などがある。酒、チーズ、酢などは、発酵によって作られる食品である。
熟成の定義
熟成は「ねかす」という言葉にも言い換えられる。食品に含まれる酵素が、食品に旨みや風味を出す工程を指す。食材の質が向上する過程が熟成であり、英語ではagingと呼ばれている。食品に含まれるタンパク質や繊維、糖質や脂質が、酵素によってゆっくりと変化し、ワインや酒、チーズや塩辛などの美味を生み出す。
2. 発酵と熟成の効果

発酵と熟成を経て作られる食材は古今東西、非常に多い。それぞれの工程を経た食材は、どのような効果を得るのだろうか。
発酵の効果と熟成の効果
発酵と熟成の工程を経て、どんな効果が得られるのだろうか。具体的に見てみよう。
【発酵】
発酵を経た食材は、風味や旨みが増すことが知られている。また、アミノ酸などの栄養素が生まれるため(※1)、味と栄養面双方においてメリットがある。さらに、発酵によって保存性が高くなる食品も多い。
【熟成】
食品中に含まれるタンパク質、食物繊維、脂質、糖質が酵素によって変化し、旨みを出したり繊維を柔らかくしたりする。熟成はゆっくりと行うほうが効果があるとされており、長期の熟成がより評価の高い香りや味を生むのである。
3. 発酵と熟成と腐敗

発酵は微生物の作用によって有機物が分解されていく経過を指すが、「人間に有益なもの」であることが条件となっている。それでは、人間にとって有益でない場合はどうなるのか。発酵と腐敗の関係を見てみよう。
発酵と腐敗は紙一重
微生物の作用によって有機物が分解されていくという発酵の定義は、実はすべてに当てはまるものではない。同じような経過をたどっても、人体に有害な場合は発酵とは呼ばず、腐敗と定義しているのである。つまり、発酵と腐敗は紙一重であり、分けるのは人間への有害性である。(※1)たとえば塩辛を例に見てみよう。塩辛は、人によっては好ましくないようなにおいを放つこともある。魚介類の内臓に塩を加えて、酵素の作用で発酵し熟成することで塩辛は完成する。生魚の生臭さが消える代わりに、発酵と熟成の過程で独特の風味が生まれるのである。加える食塩の濃度によって微生物の種類や数が異なるため、場合によっては腐敗と間違えるようなにおいを発することもある。
結論
発酵と熟成はその違いが分かりにくい事象である。発酵は微生物によって新たな成分を生み出すことに特徴がある。いっぽう熟成は、食べ物の質を向上させる工程を指す。発酵してから熟成する食材は非常に多く、日本の食卓はとくにたくさんの発酵食品や熟成した食材の恩恵を受けているといえるだろう。発酵と熟成によってもたらされる効果も生かしつつ、これらの食品を美味しく食べてほしい。
(参考文献)
監修管理栄養士:児玉智絢
経歴:女子栄養大学栄養学部を卒業後、管理栄養士免許を取得。食品メーカーの商品開発などを経験後、フリーランスとして栄養・健康分野の記事監修を中心に活動中。