1. 衣類についてしまった墨汁が落ちにくい理由
そもそも、墨汁はなぜ落ちにくいのだろうか?落とし方の前に、ちょっとした豆知識をお教えしよう。
墨汁は「不溶性」であることが大きな理由
汚れやシミには「水溶性」や「油溶性」といった種類がある。前者はコーヒーや醤油などであり、水に溶けやすい。一方後者は口紅やチョコレートなどが該当し、油に溶けやすい。ところが墨汁はそのいずれにも属さない「不溶性」であり、文字通り何にも溶けない性質を持っている。これが墨汁が落ちにくい理由だ。そればかりか、ヘタに水で洗ってしまうと広がるおそれもあるため注意が必要である。
墨汁がついた衣類は本来クリーニングに出すのがおすすめ
本稿ではご家庭で落とす方法を紹介するが、必ずキレイに落ちるとは限らない。それに、やり方を誤ればシミが広がったり、繊維や素材を傷めてしまったりするケースもある。可能であれば速やかにクリーニングに出して、シミ抜きしてもらうことをおすすめする。
2. 衣類に墨汁がついたときの応急処置
墨汁がついてしまったとき、すぐに落とせない状況であればとにかく応急処置をしよう。
応急処置の方法
墨汁がついてしまったら、ティッシュを用意してシミの部分をつまむようにし、水分(墨汁)をティッシュへ移そう。これは衣類に限らず、壁紙やフローリング、畳などでも使える応急処置だ。同じように墨汁を移すイメージでティッシュを押し当てよう。このとき、こすると広がってしまうためくれぐれも気をつけてほしい。
3. 衣類についた墨汁の落とし方4選
衣類についた墨汁は、普通に洗濯して薄まることはあるかもしれないが、キレイに落ちないことのほうが多い。広がるなど悪化させてしまう前に、まずは次のような方法を試してみよう。
歯磨き粉を使った落とし方
- 汚れてもよいタオルを敷く
- 墨汁のシミが上にくるように服をのせる
- 研磨剤入りの歯磨き粉を墨汁のシミに直接つける
- 捨ててもよい歯ブラシでこする
- 食器用中性洗剤などをつけてもみ洗いをする
- ある程度抜けたら普通に洗濯をして完了
歯磨き粉は必ず研磨剤入りのものを使うようにしよう。また歯ブラシでこする際はシミを広げないように注意し、狭い範囲(シミと同程度の範囲)でこするように心がけてほしい。
ご飯粒を使った落とし方
- プラスチック容器などを用意し、ご飯粒を入れる
- 食器用中性洗剤または液体の洗濯洗剤を加える
- 歯ブラシなどでご飯粒を潰しながら混ぜてペースト状にする
- 汚れてもよいタオルを敷き、シミが上にくるように服をのせる
- シミをほんの少しだけ湿らせ、ペーストを塗っていく
- 歯ブラシやヘラなどでこすり、ペーストが黒くなったら洗い流す
- ペーストを塗る・こする・洗い流すを何度か繰り返す
- ペーストが黒くならなくなったら普通に洗濯をして完了
この場合のご飯粒とは「炊いてあるご飯」の粒だ。炊く前の米粒ではないので間違えないようにしてほしい。ご飯粒に含まれているデンプンが、服についた墨汁を吸着してくれるというわけだ。また上記では歯ブラシやヘラとしたが、道具はなんでもよい。混ぜやすいもの、こすり洗いをしやすいものを使おう。
マジックリンと固形石鹸を使った落とし方
- 汚れてもよいタオルを敷き、シミが上にくるように服をのせる
- 墨汁のシミにマジックリンを直接スプレーする
- 固形石鹸を塗り、もみ洗いをする
- 洗面器や洗濯桶に水を溜め、いったんすすいで落ち具合を確認する
- マジックリン・固形石鹸・すすぎの流れを何度か繰り返す
- 薄くなってきたら普通に洗濯をして完了
マジックリンは強力な洗剤なので、手荒れを防ぐためにゴム手袋など着用しよう。また固形石鹸を塗る際、シミを広げないように外から内へを意識するとよい。なおすすぎの際、シミ以外の部分を水に浸してしまうと広がるおそれがある。シミだけを水に浸けるようにしよう。
墨汁汚れ用の洗剤を使って落とす方法もある
呉竹の「スミノン アルファ」などは、墨や口紅といった汚れを落とす効果のある洗剤だ。子どもが習字を習っているなどで墨汁を使う機会が多いご家庭であれば、ぜひ1つこうしたアイテムを持っておくとよいだろう。
4. 色柄物の衣類についた墨汁の落とし方と注意点
うっかり色柄物の衣類に墨汁をつけてしまったとき、落とし方にはどういったものがあるだろうか?
基本的な落とし方はほかの衣類と同じ
上述した研磨剤入りの歯磨き粉を使った落とし方、ご飯粒を使った落とし方、マジックリンと固形石鹸を使った落とし方などになるだろう。ハイターなど漂白力の強い塩素系漂白剤もあるが、これらは色柄物の衣類などに使用すると色落ちのリスクがあるため控えよう。
事前に必ず色落ちチェックをすること
ハイターなどの塩素系漂白剤以外に、マジックリンなど強力な洗剤を使う場合も、繊維へのダメージや色落ちといったリスクが生じる。時間勝負ではあるのだが、色落ちなどのトラブルを招いては元も子もない。まずは目立たない部分にマジックリンなどの洗剤を直接つけて数分待ち、白い布を当ててみて色移りしないかどうか確認しよう。色移りしそうな場合はクリーニングがおすすめだ。
5. 墨汁による衣類のトラブルを少しでも減らすには?
墨汁がはねたり、うっかりこぼしてしまったりするのは仕方がないし防ぎようもない。だが少しでもシミ抜きの負担やストレスを減らすためにできることはある。
黒い服、汚れてもよい服を着る
習字など、墨汁を使うことは事前に分かっていることが多い。黒い服を身につけるか、あるいは汚れても構わない服を着るように心がけよう。
呉竹「洗って落ちる書道液」を使う
清書向きではないが、ぬるま湯に10分ほど浸けてから漂白剤と一緒に洗濯すればキレイに落ちるという書道液だ。ただし絹や毛、レーヨンなどは染色が起こるため落ちにくい。
サクラクレパス「洗濯で落ちる墨液」を使う
ぬるま湯に漂白剤と洗剤を溶かし、2時間浸け置きしてから本洗いをすればキレイに落ちる。ただしウールやナイロン、絹などは染着が起こり洗濯では落ちないため気をつけよう。
6. 衣類の墨汁汚れの落とし方は「クリーニング」が基本
衣類についてしまった墨汁汚れをご家庭で落とす方法について紹介してきたが、冒頭でもお伝えしたように元のようにキレイになるとは限らない。色落ちなどのリスクもあるし、マジックリンやハイターなど強力な洗剤は繊維を傷めてしまうおそれもある。応急処置はすべきだが、キレイに落としたいときは最初からクリーニングに出すことを基本に考えよう。
7. 壁紙やフローリング、畳などについた墨汁の落とし方も知っておこう
墨汁が壁紙にはねてしまったり、フローリングや畳にこぼしてしまったりすることもある。そうした場合の墨汁の落とし方も知っておくと役に立つはずだ。
壁紙についた墨汁の落とし方
とにかく時間勝負になってくるのだが、クロスが剥がれるおそれがあるため、ゴシゴシと力強くこするのは危険だ。クロスに染み込む前ならティッシュを押し当てて水分を移したのち、軽く押すように拭いただけで落ちる場合もある。
厄介なのは、クロスに墨汁が染み込んでしまった場合だ。そのときは、水で薄めたキッチンハイターや中性洗剤を布などに含ませ、墨汁に押し当てるようにして移していこう。これである程度目立たなくなるはずだ。
ただし壁紙の素材や色によっては洗剤が使用できない場合もある。先に目立たない場所で試すか、念のため控えたほうがよいかもしれない。壁についた墨汁は、とにかく早めの対処を心がけよう。
厄介なのは、クロスに墨汁が染み込んでしまった場合だ。そのときは、水で薄めたキッチンハイターや中性洗剤を布などに含ませ、墨汁に押し当てるようにして移していこう。これである程度目立たなくなるはずだ。
ただし壁紙の素材や色によっては洗剤が使用できない場合もある。先に目立たない場所で試すか、念のため控えたほうがよいかもしれない。壁についた墨汁は、とにかく早めの対処を心がけよう。
フローリングについた墨汁の落とし方
この場合は拭き取ることができる。ティッシュなどを押し当てて水分を移せるだけ移そう。残ったシミはメラミンスポンジや歯ブラシでこすると落ちる場合が多い。研磨剤入りの歯磨き粉を使えば、時間が経った墨汁のシミを落とせることもある。なおカーペットの場合は、衣類についた墨汁の落とし方と同じ方法を試してみよう。
畳についた墨汁の落とし方
畳の目に墨汁が入り込んでしまうため、キレイに落とすのは困難だ。壁紙と同様とにかくスピードがモノをいう。まずはティッシュを押し当てるなど応急処置を施し、次に水で薄めた中性洗剤と歯ブラシで畳の目に沿って優しくこする。奥深くに染み込んだ墨汁は落とせないが、浅い部分に入り込んだ墨汁であれば落とすことができる。なお畳が濡れたままではカビが生えるおそれがある。立てるなどして乾かすか、扇風機やサーキュレーターを当てて乾かすなどしよう。
8. 墨汁はできる限り速やかに落とすことが大切
いろいろな墨汁の落とし方を紹介してきたが、どの落とし方も時間が経つほど効果が薄れてしまうため、とにかく「墨汁がついたらできる限り速やかに落とす」ということが大切だ。学校の授業などでついてしまったときは仕方がないかもしれないが、前もって習字の授業があるなどと分かっているときは黒い服を着てもらうといった工夫も取り入れよう。
結論
墨汁は不溶性であるため確かに落ちにくい。だが、対処が早いほど落とせる確率は高くなる。本稿で紹介した応急処置や落とし方をぜひ実践してみてほしい。ただし、色落ちや繊維へのダメージなどが気になる場合は無理をせず、クリーニングに出してプロの手にお任せしよう。