1. キュプラとは?

まずはキュプラについての基礎知識から簡単に解説しよう。
裏地などによく使われる再生繊維
キュプラとは繊維の名前で、正式名称を「銅アンモニアレーヨン」という。天然素材を原料に作られている再生繊維だ。シルクに似た艶やかな素材で、スーツの裏地や女性用のドレスによく使われるほか、和服やインテリア用品などにも幅広く使われている。キュプラに似た見た目のレーヨンやポリエステルという素材があるが、原料や作られ方はまったく違う。
旭化成「ベンベルグ」もキュプラのひとつ
旭化成の登録商標「ベンベルグ」(※1)もキュプラのひとつである。綿実油を作る際に生じる「コットンリンター」という副産物を独自の技術で精製・溶解して作った再生繊維で、上質な心地よさが人気の繊維である。
キュプラの原料
キュプラは、コットンリンターという綿花の種の周りの産毛部分が原料だ。短すぎて綿糸にできないことから捨てられていたその産毛部分を、精製・溶解して作った再生繊維である。このことからもキュプラはエコな繊維といえるだろう。天然繊維が原料でありながら自然のものより均一性があるという、天然ものと人工ものの「いいとこ取り」をしたような繊維だ。
キュプラの名前の由来
綿花の周りの産毛を溶解する際「「Cuprammonium(キュプラモニウム)」という酸化銅アンモニア溶液を使うのだが、キュプラはその頭部分「Cupra」からきているとされる。キュプラには「銅」という意味も込められているのだ。
レーヨンやポリエステルとの違い
レーヨンもポリエステルも光沢がある化学繊維で、キュプラと同じようにスーツの裏地によく使われている。だがレーヨンは木材パルプから作られた再生繊維、ポリエステルは石油由来のキシレンから作られた合成繊維だ。キュプラ・レーヨン・ポリエステルは見た目が似ていても、原料や機能面で異なる。
仕立てるのに適したアイテム
自分で仕立てる際、キュプラ100%で作りたければ裏地に留めておくとよいだろう。とはいえ、いかんせん初心者には取り扱いが難しい。そのためコットンとの混紡生地に仕立てるといった方法がおすすめだ。たとえばシャツか、女性向けのアイテムならワンピースやブラウスなどがよいだろう。
2. キュプラのメリット

続いてキュプラの特徴を、メリット・デメリットという形でお伝えしよう。まずはメリットからだ。
高級感がある
高価なスーツの裏地に使われることの多いキュプラは、光沢がありドレープ感が贅沢な雰囲気の繊維だ。なめらかで肌触りがよく、袖通しももたつかない。チラッと裏地が見えたときなどに漂う高級感は大きな特徴だ。
調湿機能がある
キュプラは素材そのものに水分を多く含んでおり、しっとりしている。その繊維に含まれている水分には、湿度調節や保温といった効果がある。蒸し暑い夏は体をひんやりさせ、寒い冬は体を温める作用がある。
静電気が起こりにくい
保湿性に優れているキュプラは静電気が起こりにくい。裏地に使ったときなど、冬場の嫌な静電気を抑える効果がある。
3. キュプラのデメリット

一方、キュプラにはいくつかデメリットもある。
ほかの合成繊維に比べて高価
レーヨンやポリエステルと比べるとキュプラは高価である。これはキュプラの製造工程が難しく、世界でも数えるほどの企業しか作ることができないといったことが影響しているかもしれない。
水に弱い
水に弱く濡れるとシミやシワになってしまう。そもそも水洗いできないものが多いが、仮にご家庭で洗濯する際は縮みやシワなどに十分気をつける必要がある。
摩擦に弱い
摩擦にあうと繊維が傷み毛羽立ちやすい。普段着ている分には激しい摩擦など起こりにくいものだが、たとえば何かをこぼしたとき、シミ取りのため強く擦るなどすればあっという間に毛羽立ってしまい元に戻りにくくなる。
4. キュプラを取り扱う際の注意点

キュプラは非常にデリケートな素材である。取り扱う際は次のような点に気をつけよう。
水濡れと摩擦は避けること
お伝えしているようにキュプラは水と摩擦に弱い。たとえ洗濯可能のものでも、水に浸す時間を極力短くするようにしよう。洗濯の際は先にタオルまで準備し、手早く済ませるよう心がけることだ。また擦ると生地がダメージを受けてしまうので、洗いもすすぎもキュプラを洗濯ネットに入れて、その上から押すだけにしよう。
5. キュプラのお手入れ方法

キュプラは水や摩擦に弱いため、お手入れをするならクリーニング店に出すのが無難だが、ご家庭で洗濯しなければならないこともあるだろう。その際は次の手順で手洗いをしよう。
洗濯表示を確認
同じキュプラ素材の衣類でも、ものによって洗濯できるかどうか異なる。洗濯表示を見たとき、洗濯桶のマークや手洗いと書かれているものはご家庭で洗濯できる。洗濯桶のマークにバツが付いていたらご家庭では洗えないので、クリーニング店に出そう。なお洗濯表示は新旧あるため、詳しく知りたい方は消費者庁のサイトに目を通しておいてほしい(※2)(※3)。
準備するもの
- おしゃれ着用の中性洗剤
- 洗濯ネット
- 大きめのタオル
- 大きめの洗濯桶
手洗い方法
- 洗濯桶に30℃程度のぬるま湯をはり、洗剤を適量混ぜ入れる
- 衣類をたたんで洗濯ネットに入れる
- 洗濯ネットごとお湯に浸し、30秒ほど押し洗いする
- 水を替えながら、泡立たなくなるまで2〜3回、手で押すようにすすぐ
- 洗濯ネットごと大きめのタオルに包み、押しながら脱水する
- 風通しのよい日陰に干す
以上がキュプラをご家庭で手洗いする場合の手順だ。ただし温度は洗濯表示に、また洗剤やお湯の量はパッケージに従って調節してほしい。丁寧に作業しているつもりでも摩擦が起これば毛羽立つおそれがあるうえ、水に濡れてシワや縮みが生じるおそれもある。やはり、できればクリーニング店に持ち込むことをおすすめしたい。
シミの取り方
シミができた部分を無理に擦ると余計に生地を傷め毛羽立ってしまう。この場合は無理をせず、クリーニング店に相談するとよい。
シワの取り方
洗濯表示を確認し、アイロンをかけても問題ないか確認しよう。OKであれば当て布をして、低温か中温でアイロンをかけると元通りになる。水に弱い素材なので、アイロンの際はスチーム機能を使わないようにしよう。
6. エコな素材「キュプラ」をぜひ覚えておこう

キュプラそのものを知らないという方も多いので、キュプラを知っているというだけでちょっとしたうんちくネタになるかもしれない。それはさておき、お伝えしてきたようにキュプラは天然繊維と化学繊維のいいとこ取りをした特別な繊維だ。取り扱いが難しいため、せっかくの高級感を損なわないよう、ご家庭では無理に洗濯をせずクリーニング店に任せることをおすすめする。
結論
キュプラは高価だが美しく着心地もよい。とくに、ふとしたときに見える裏地にキュプラを使えば一目置かれるかもしれないし、周りと差をつけられるかもしれない。これを機に、ぜひキュプラに興味を持っていただければ幸いだ。
(参考文献)
- 1:旭化成株式会社 キュプラ繊維「ベンベルグ」「bemberg」サイト
https://www.asahi-kasei.co.jp/fibers/bemberg/ - 2:消費者庁「洗濯表示(平成28年11月30日まで)」
https://www.caa.go.jp/policies/policy/representation/household_goods/guide/wash.html - 3:消費者庁「洗濯表示(平成 28年12月1日以降)」
https://www.caa.go.jp/policies/policy/representation/household_goods/guide/wash_01.html