目次
1. お酒をテーマに国を巡る、2度の世界一周で芽生えたワイン愛
ー吉川さんはもともとライターとして活動され、「オリひと」でもご執筆いただいていますが、ライターになったきっかけは何だったのですか?
僕は小さい頃から文章を書くのが好きで、知り合いがやっているワインのメディアへの出稿をきっかけに、最初は副業として細々と始めました。そうして2-3年続けていくうちに、好きなこと、得意なことを発信していくことの面白さを知っていきましたね。
また、もともと在宅でできる仕事に興味があったので、新型コロナウイルスの影響が大きくなってきた頃に、副業から本業へとスライドしてきました。
ーこれまで世界の蒸留所やワイナリーなどを巡ってきたご経験も踏まえて執筆されていますよね。そこにはどういった経緯があったのでしょうか?
僕は経歴が特殊で、大学卒業後に1年間世界一周旅行をしていました。世界一周旅行は小さい頃からの夢で、幼稚園の卒業文集にはすでに「大人になったら世界中を旅したい!」と書くほどでした。ちょうど大学時代にバーテンダーをしていたこともあり、「世界中の酒場で飲んでみたい!」という思いから、自ずと旅のテーマはお酒になりましたね。
帰国後にはお世話になっていたマスターが開店したワインバーに誘っていただいたので、そこで勤めながらJ.S.A認定ソムリエの資格を取ったのちに、2回目の世界一周へ向かいました。
ー2回目の世界一周でもお酒をテーマにした理由は何かあったのですか?
1回目の時には、圧倒的にお酒の知識が足りなかったからですね。当時もワイナリー等を回っていたものの、いいワインを飲んでも「よく分からないけど美味しいなぁ」というくらいの感想で......もったいなかったなと思いました。
だからこそソムリエとして知識をつけて、よりニッチなお酒の世界を見てこようと、2回目も同じテーマにしました。ワイン発祥の国であるジョージアに1ヶ月住んでみたり、世界一の美食街と呼ばれるスペインのサンセバスチャンにも長めに滞在して、本場のバルも堪能しながら、お酒の原点を学びました。
あとは、ワインのブドウ畑で収穫作業を眺めていたら「手伝ってみないか?」と声をかけられて収穫のお手伝いをすることになったことがあって。こうした体験を通して、当たり前にスーパーで売られている一つ一つのワインの背景やストーリーを知ることができて、「ワインってやっぱりいいなぁ」と、ワインに対する愛が改めて芽生えましたね。

2. ワインを気軽に楽しく飲める、「普段着のペアリング」を提供したい
ーなるほど。そういった実体験と知識をライターとして発信していらっしゃいますが、執筆する際にこだわっている、意識していることはありますか?
「わかりやすさ」ですね。知ってる人に説明するのは簡単なのですが、興味があるけど難しいと感じている人に伝えるにはどうすればいいか、を意識しています。ビールや身近なお酒に比べて、ワインは難しい印象を持たれがちなので。
それこそ僕がオリひとで連載している「今日の晩酌」では、ワインをおいしく飲むためのペアリングは、決して難しくないということを伝えたいと思っていますね。
ー私自身もワインに対しては、知識やテクニックのいるものだという印象が強いですね。
ワインは特別な日に飲むもので、ハードルの高いものと思ってしまいがちです。でも、普段の夕食に合わせて「今日は2・3杯、たのしく飲もうよ!」という気持ちで飲んでほしくて。
キレイなテーブルセッティングやコース料理とのペアリングがなくとも、十分楽しめるものなのだ、ということを伝えたいですよね。そういった身近で楽しいもの、「普段着のペアリング」を意識しています。
ー「普段着のペアリング」って素敵な表現ですね!様々なメディアでも執筆されてきたなかで、生活や考え方に変化はありましたか?
普段何気なく過ごしている自分の日常生活が、伝え方によっては意味のある発信になる、と思うようになりましたね。「これを記事にしたら誰かの役に立つかも」「この写真を綺麗に撮れば記事に使えるかな?」といったように、常にネタを探すような感覚を得るようになりました。
ワインの知識を紹介する記事制作だけではなく、今のようにオリジナリティをもった執筆ができるようになって、楽しくなりました。記事に対してもSNS等でリアクションが見えると、やってよかったなぁと思いますよね。

3. 何でも受け入れる懐の深さ、「正解がない」ことがペアリングの魅力
ー「オリひと」での執筆もしかり、吉川さんは何かを組み合わせる「ペアリング」に重きをおかれているのでしょうか?
まさにそうですね。例えば、美味しいステーキを普通に食べるだけでも幸せですが、そのステーキに合うワインを飲むことで100倍美味しくなるような、掛け算のような組み合わせを旅の途中ですごく感じることがありました。
だからこそ、普通の食事もワインと合わせることでもっと豊かになる、もっと美味しくなる。「ワインで人生を美味しくする」が僕の人生のテーマになっています。
ーすごく奥深い世界だとは思いますが、ペアリングを考えるうえで初心者でもわかりやすい組み合わせのコツはありますか?
色味を合わせるというのはよく言われていることですよね。肉には赤ワイン、魚には白ワインというイメージを皆さんも持っていると思いますが、鶏肉は肉ですが焼くと白くなることからも実は白ワインが合いますし、サーモンは魚でもオレンジワインが合う。色味の濃さで合わせると、なんとなくわかりやすいかな、とは思います。
ーいろんな掛け算があるからこそ、とても複雑に感じますよね。
複雑ですが、だからこそ僕が良いなと思っているのは「ペアリングに正解がないこと」なんです。絶対的な正解がなければ、間違いもない。説明の仕方や感じ方次第で、「これもアリだよね?」と思えるような、そういった懐の深さもペアリングの魅力だと感じますし、惹かれていますね。ワインは一生をかけて追求できるようなコンテンツだな、と思っています。

4. いい時間を過ごすための、本質的なお酒の魅力を伝えていきたい
ー大学時代のバイトをきっかけに、一生を追えるテーマに出会えることは素敵です。
その時は「オシャレなところで働きたいなぁ」くらいの感覚で、大人の世界に踏み込んでみたかったのだと思います。大学生の時って、安酒の一気飲みをして酔っぱらうことが目的、のような飲み方をしがちだったのですが、バーテンダーをしている時に「良い時間を過ごすためにお酒があるんだ」と、お酒の本質的な魅力に気づきました。
こうしてお酒と食事とのペアリングや、そこで過ごす時間というものの良さに、若いうちに気づけたことが自分にとって大きな収穫だったなと思います。
ー吉川さんはライターとしてはもちろんのこと、今後挑戦してみたいことはありますか?
ワイン関係はもちろん、お酒やグルメに関すること、旅に関することなど、経歴やキャリアに関係のあるものを執筆してきましたが、これからはどんどん新しい分野にチャレンジしていきたいなと思っています。例えば、ワイン会に興味がありますね。
餃子とワインを合わせてみたり、様々なペアリングを見出していく会にチャレンジしてみたくて。今はこういうご時世なので難しいとは思っているのですが、何か動き出していきたいですね。
ーそれでは最後に、オリひと読者の皆様にひとことをお願いします。
酔うためだけにお酒を飲むという風潮は、世代を問わず少なからずあるとは思います。飲ミュニケーションと言われるものも立派なツールのひとつではありますが、せっかくなので、ちょっとした美味しい料理とお酒をペアリングしてみませんか?
酔っぱらうことの素晴らしさは皆さんご存じかと思うので、いい時間を過ごすための、本質的なお酒の魅力を伝えていけたらいいな、と思っています。
結論
今回のインタビューを通して、どこか難易度の高いものに感じていたワインが、ぐっと身近なものに感じられた。それはきっと、吉川氏の2度にわたる世界一周の経験と知識の深さ、強い想いがあったからであろう。「ワインで人生を美味しくする」という想いを胸に、活動の幅を広げていく吉川氏に注目だ。