1. 鮭は出世魚ではない?そもそも出世魚とは?
日本で鮭といえば「シロサケ」を指すのが一般的だ。このシロサケは、漁獲時期や成熟度、食味などによって呼び名が変わるのだが「出世魚」とは呼ばれていない。これはなぜだろうか?まずはどういった魚を出世魚と呼ぶのかについて確認していこう。
出世魚とは
稚魚から成魚にかけて、成長段階によって異なる呼び名を持つ魚の総称が出世魚だ。鮭が含まれないのは、成長段階のみならず漁獲時期や生育する環境、地域や食味など、いろいろな条件によっても名前が変わるためかもしれない。
出世魚と呼ぶようになった理由
江戸時代の風習が深く関わっているといわれている。たとえば武士や学者などは元服(今でいう成人)を迎えると大人の名前に改名し、着る物も変わる。それ以外でも、身分が上がり有名になると改名するといったことが一般的であったという。皆さんご存知の「徳川家康」も、生まれたときは「竹千代」だがその後「松平元信」「松平元康」「松平家康」「徳川家康」と、人生の転機で改名を重ねてきた偉人だ。
こうした風習が魚にも当てはめられ、成長にともない名前が変わる魚を出世魚と呼ぶようになったといわれている。ただしどの魚でもよいというわけではなく、豊漁の前兆とされているなど、縁起がよい魚が出世魚とされているようだ。
こうした風習が魚にも当てはめられ、成長にともない名前が変わる魚を出世魚と呼ぶようになったといわれている。ただしどの魚でもよいというわけではなく、豊漁の前兆とされているなど、縁起がよい魚が出世魚とされているようだ。
代表的な出世魚
- ブリ
└東京:ワカナゴ(ワカシ)→イナダ→ワラサ→ブリ
└大阪:ツバス→ハマチ→メジロ→ブリ - スズキ
└東京:コッパ→セイゴ→フッコ→スズキ→オオタロウ
└静岡:セイゴ→マタアカ→オオマタ→コウチ→チウイオ→オオチュウ→オオモノ - ボラ
└東京:ハク→オボコ→スバシリ→イナ→ボラ→トド
└高知:イキナゴ→コボラ→イナ→ボラ→オオボラ など
一例だが、ブリやスズキ、ボラはいってみれば出世魚の3トップだ。成長段階はもちろん、地域によってもいろいろな名前がある。
2. 出世魚ではないが名前が変わる!鮭の呼び名と特徴
話を鮭に戻そう。出世魚とは呼ばれていないが、鮭もいろいろな名前を持っている。特徴とあわせて解説しよう。
秋鮭(アキサケ)・秋味(アキアジ)
鮭は川で生まれて海へ降(くだ)り、産卵期の秋になると母川へと戻ってくる。この産卵を控え成熟した鮭を秋鮭や秋味などと呼ぶ。スーパーで手に入る旬の鮭の多くはこの種類だ。
鮭児(ケイジ)
1万本中1〜2匹しか獲れないほど希少価値が高いことから「幻の鮭」の異名を持つのが鮭児である。生まれて3〜4年ほどの若いものが多く、卵巣・精巣が未成熟で脂ののりが非常によい。高級寿司のネタにも使われる。
時知らず(トキシラズ・トキ)
春から初夏という、季節外れの時期に漁獲されるシロサケが時知らずだ。産卵の準備に入る前のもので、鮭児と同様に卵巣・精巣が未成熟で脂ののりが非常によい。鮭児に次いで高値で取引される。
目近(メジカ)
沿岸まで回帰してきて、これから産卵の準備に入ろうとしているシロサケを目近という。秋鮭よりもやや成熟度が低いという、レアな鮭でもある。鼻の曲がりが少なく、目と口の間の長さが短いことからこの名が付いたとされている。
銀毛(ギンケ)
産卵のために接岸する秋鮭の中でも、産卵1〜2カ月前など未成熟なもののうち、体の表面(鱗)が銀色に輝いているものを銀毛と呼ぶ。通常、秋鮭は淡水域に近づくにつれて鱗が剥がれ斑紋が現れるが、沖で漁獲されたものにはそれがなくキレイな銀色をしている。
山毛欅毛(ブナケ・ブナ)、黄檗(キハダ)
こちらは銀毛と異なり、淡水域に近づいたことによって徐々に鱗が剥がれ、ブナの木の木肌のような「婚姻色」の斑紋が現れる。ここから名がついたのがブナなどと呼ばれる鮭だ。身がサーモンピンクよりも白っぽくなり、食味は低下するといわれていることから一般的にはあまり流通しない。
3. 鮭以外にもいる!出世魚ではないが名前が変わる魚とは
一般的には出世魚と呼ばれていないものの、名前が変わる魚はほかにも多くいる。せっかくなので代表的なものを紹介しよう。なお考え方や人によっては以下の魚を出世魚と捉える場合もあるし、地域などにより呼び名は変わる場合もある。
マグロ
- 本マグロ(クロマグロ)
└メジマグロ→大メジ→本マグロ - メバチマグロ
└ダルマ→中バチ→メバチマグロ - キハダマグロ
└キメジ→小キハダ→キハダマグロ
サワラ
- サゴシ→ヤナギ→サワラ
コハダ
- ジャコ(またはシンコ)→コハダ→ナカズミ→コノシロ
真イワシ
- シラス→カエリ→コバ→チュウバ→オオバ
4. 鮭の一生
再び話を鮭に戻そう。続いては、鮭はどのような一生を送るのかを詳しく解説する。ちょっとした豆知識として、ぜひこの機会に学んでおこう。
鮭の一生
天然の鮭は川で生まれたら海に降り、外洋で栄養をしっかりと摂りながら成長したのち、産卵のために生まれ故郷の母川に戻ってくる。産卵後は身が細り体力も衰え、ほとんどが一生を終えてしまう。
孵化後の鮭は稚魚になり海へ降るのだが、そのタイミングは種類によって異なる。ひとつは、稚魚になったあとすぐに降海するシロサケ、もうひとつは1〜2年間の淡水生活を送ったのちに降海するベニザケだ。また、淡水にいたときに体にあった斑点は降海のタイミングで消失し、銀色に変化する。これをスモルト化(銀化)といい、この時期の鮭をスモルトと呼ぶこともある。
鮭は本来白身の魚であるが、エサとして食べる甲殻類のプランクトンに含まれる「アスタキサンチン」が蓄積し、身肉がサーモンピンクになる。成熟し、産卵に備えて遡上する前後には餌を食べなくなり、身肉に含まれる栄養素は卵に移行する。このため身は徐々に白くなる。
ちなみに、鮭の仲間には一生を淡水で暮らすものもいる。欧米では淡水生活を送るものを「トラウト(鱒=マス)」、海に降るものを「サーモン(鮭=サケ)」と呼んで大別している。
孵化後の鮭は稚魚になり海へ降るのだが、そのタイミングは種類によって異なる。ひとつは、稚魚になったあとすぐに降海するシロサケ、もうひとつは1〜2年間の淡水生活を送ったのちに降海するベニザケだ。また、淡水にいたときに体にあった斑点は降海のタイミングで消失し、銀色に変化する。これをスモルト化(銀化)といい、この時期の鮭をスモルトと呼ぶこともある。
鮭は本来白身の魚であるが、エサとして食べる甲殻類のプランクトンに含まれる「アスタキサンチン」が蓄積し、身肉がサーモンピンクになる。成熟し、産卵に備えて遡上する前後には餌を食べなくなり、身肉に含まれる栄養素は卵に移行する。このため身は徐々に白くなる。
ちなみに、鮭の仲間には一生を淡水で暮らすものもいる。欧米では淡水生活を送るものを「トラウト(鱒=マス)」、海に降るものを「サーモン(鮭=サケ)」と呼んで大別している。
5. 鮭の仲間
鮭は基本的に川で生まれて海へ降り、回遊して栄養を溜めて産卵期に川に戻る。このとき、海に降りないものは同じ種類の魚でも呼び名が変わり、栄養摂取の違いから見た目も変わってくる。ということで、続いては鮭の仲間について見ていこう。
鮭の仲間とその特徴
- シロサケ
今回中心に解説してきた、日本で食用とされる代表的な鮭だ - ギンザケ
塩鮭として加工されることが多いギンザケは、日本では海面養殖か輸入がほとんどである - ベニザケ
産卵前の婚姻色が美しい紅色になる。ほとんどが輸入で、陸封型(湖沼残留型)がヒメマスと呼ばれる。アスタキサンチンが豊富に含まれており身が赤い - カラフトマス
ピンクサーモンとも呼ばれている。鮮魚での流通は少なく、多くが鮭缶などの加工品になっている - サクラマス
ヤマメの降海型で、河川残留型をヤマメとして区別されることが多い。「サクラ」の名称は、産卵期の婚姻色や桜の開花時期に遡上することに由来している - ニジマス
基本的には一生を淡水で過ごす河川残留型の魚であるが、海に降る個体もあり、そちらは体が大きい。ニジマスを海面養殖した「サーモントラウト」「トラウト」の名称でも流通している - キングサーモン
日本ではマスノスケと呼ばれ、ほとんどがカナダなどから輸入されている。身が厚くステーキなどに向いている
ちなみにアトランティックサーモンは、和名を「タイセイヨウサケ」としているが、サケ属ではなくサルモ属に分類される。ほとんどが養殖で、アニサキスのリスクは少ないとされることから刺身など生食用にも使われる。
結論
日本で鮭といえば一般的にはシロサケを指す。一生の間に呼び名が変わる鮭だ。また商品名や国独自の呼び方、生態学や学名などでの分類は複雑で曖昧なもので「鮭=サーモン」とも限らない。いずれにせよ名前が変われば味わいも変化する。それぞれの美味しさを楽しむのもよいのではないだろうか?