1. 宗教と身分制度

インドでは食べていいもの、食べてはいけないものが細かく決まっている。習慣はそれぞれの宗教によるところが大きく、行事や祭りに基づいた食生活である。
宗教のるつぼ
人口の83%がヒンドゥー教徒で、次に世界第2位の信者数を誇るイスラム教が続く。そのほかスィーク教、ジャイナ教、キリスト教、仏教と数多くの信仰者が住んでいる。ヒンドゥー教では牛は聖なる生き物なので絶対に食べないし、イスラム教は豚を食べない。厳格な場合は菜食主義になるのだそうだ。
「ジューター」の概念
ヒンドゥー教では生活でも食事でも「ジューター」の概念が非常に重視されている。直訳すると汚れ、穢れのことである。物質にはすべていいもの、きれいなものと悪いもの、汚いものがある、という概念だ。もちろんきれいなものの方が好まれており、穢れたものすなわちジューターは徹底的に避けられる。これには宗教のほか、身分制度による深刻な差別が関係している。今では人種差別は少なくなってきたものの、ジューターの概念だけはなくならないようだ。
2. 特に注意!右手と左手の使い分け

インドでは食事の際、直に手を使う。このため、右手と左手の使い分けが大変重要なテーブルマナーとなっている。
右手は「正しい」
インドで右手を使って食べることは、テーブルマナーというより宗教的な自己防衛に近い。左手はジューターで不浄とされるため、排便の後始末などはすべて左手で行っている。食事の時は、食べ物をちぎる、米とカレーやおかずを皿の上で混ぜる、口へ運ぶといった食事行為を右手で行う。
最も、いまでは厳格な右手主義者は少なく、不便な場合は左手を使うことも多いようだ。
最も、いまでは厳格な右手主義者は少なく、不便な場合は左手を使うことも多いようだ。
取り分ける作業は左手で
食事時、左手は一切使わないのかといえばそうではない。大皿料理からの取り分けや、重ねて置いてあるチャパーティー(小麦を練って焼いたもの)を取る際は、必ず左手を使う。
これは、右手を使うと残された料理すべてがその人の「食べ残し」になってしまうという概念からで、インド人はこれを非常に嫌がる。誰かが口をつけたものはジューターであり、食べ残しは不浄なのだ。
これは、右手を使うと残された料理すべてがその人の「食べ残し」になってしまうという概念からで、インド人はこれを非常に嫌がる。誰かが口をつけたものはジューターであり、食べ残しは不浄なのだ。
3. インド式テーブルマナーにチャレンジ

右手と左手の使い分けを理解したら、ぜひインドカレーを手で食べてみよう。
テーブルに肘をつく
日本では少々行儀が悪いことだが、インド式のテーブルマナーでは両肘をテーブルにつく。こうして肘から先をすべてテーブルにのせて左手で取り分け、右手で直接食べ物に触れて口へ運ぶのだ。インドは南北で主食が違い、よく見かけるナンやチャパーティー、パラタなどパン状のものは北部式、水っぽいシャバシャバのカレーに米を合わせたものは南部式となる。
手食に挑戦!
簡単に見えるが、実は直接手で食べる手食は意外と難しい。指に米粒がついてばかりで、口になかなか入れられないのだ。コツは、カレーやおかずを使って米をひとくち大にまとめ、親指以外の指の第一関節にのせて口元へ運び、親指で押し出すようにして口の中に入れることだ。手の平や指の根元が汚れているのはマナー違反とされる。
結論
宗教や文化が背景にあるインドのテーブルマナー。実際に手を使って食べると、インド人は非常に喜んでくれる。食器ではなく手を使って口に入れると、五感が研ぎ澄まされて美味しく感じるのだそうだ。自宅でもインド式の手食にぜひチャレンジしてみよう。