目次
1. ブリの呼び名がたくさんあるのは出世魚だから

ブリは「イナダ」や「ハマチ」など、さまざまな呼び方をされる魚のひとつだ。名称は基本的に成長の段階で変化し、サイズや見た目に大きな差が出るため判断ができる。基本的な呼び名は、若い順からワカシ、イナダ、ハマチ、そしてブリになる。しかし、地域によっては、まったく違う名前を使うこともあるようだ。
出世魚とはなに?
ブリのように成長によって名称に変化がある魚は、一般的に「出世魚」と呼ばれる。江戸時代まであった元服や出世による改名の習わしとかけ、「成長とともに出世を願う」といった縁起を担ぐ魚として呼ばれるようになった。出世魚にはブリ以外にも、スズキやボラ、イワシなどがある。これらは普段でも口にすることが多いが、とくに祝い事や門出のための料理として、昔から好んで使われる。
出世魚は大きさや見た目で変化がしやすく、食べ方も成長によって違う。この理由から、漁師や魚屋が判別、販売しやすく分類したのが、ブリを含めた出世魚の始まりとされている。
ブリの特徴や味わい
日本海から太平洋まで広く生息するブリは、スズキ目アジ科の魚。ブリの名前の由来は、「脂がのっている魚」がなまった結果という説のほか、「身が締まってブリブリしている」など、諸説ある。北は北海道から南は宮崎など日本全域で獲れる魚で、数ある食用魚の中でも最も脂がのった魚だ。
ブリの旬は12月頃で、最も脂がのって美味しく食べることができることから、「寒ブリ」と呼ばれ親しまれている。このため、「師走(12月)に脂がのり、美味しくなる」というところから、漢字も「鰤(ブリ)」と書く。主に刺身やカルパッチョ、寿司ネタとしても重宝される魚で、照り焼きや煮物として調理できるため、日本の食卓には欠かせない食材だ。
2. 出世魚ブリの名前や順番

出世魚であるブリは、成長に伴い呼び名が変化していく。呼び名は地方により異なるが、関東では主に次のような名称が用いられている。成長による名称の順とそれぞれの体長は次の通りだ。
- モジャコ:約3~7cm
- ワカシ:約10~30cm
- イナダ:約30~60cm
- ワラサ:約60~80cm
- ブリ :約80cm以上
では、それぞれの特徴について詳しく見ていこう。
出世魚ブリの呼び名その1:モジャコ
ブリの稚魚を指す「モジャコ」は、海藻に隠れながら暮らす生態がその名の由来とされる。食用として流通することはほとんどなく、流れ藻ごと網ですくい取られ、養殖用の稚魚として用いられる。
出世魚ブリの呼び名その2:ワカシ
アジと同程度のサイズで、身が締まっているのが特徴だ。脂は比較的少なくさっぱりしているが、プリっとした弾力があり刺身に向いている。また、小ぶりなため尾頭付きの塩焼きなどにしても美味しい。
出世魚ブリの呼び名その3:イナダ
ハマチやブリと比べると脂が少なく、さっぱりした味わいのため、刺身やカルパッチョなどの生で食べるのがおすすめだ。
ちなみにイナダは天然ものを指して呼ぶ傾向もあるため、広く知られる名前である。
ちなみにイナダは天然ものを指して呼ぶ傾向もあるため、広く知られる名前である。
出世魚ブリの呼び名その4:ワラサ
ワラサはイナダよりも脂がのり、刺身としても美味しく食べることができるため、寿司ネタの定番としても有名である。関東ではワラサと呼ばれるが、寿司店などでは、ワラサよりも「ハマチ」という名称が主流だ。ハマチもワラサと同様にイナダが成長して呼ばれる名称で、主に関西で用いられる。地域によっては30~40cmのものを呼ぶことがある。最近は養殖ブリをワラサ、ハマチと呼ぶ傾向もあるようだ。
出世魚ブリの呼び名その5:ブリ
ブリは成魚の状態を指しており、いままでの成長段階で最も脂がのった状態になる。刺身や寿司でも美味しいが、照り焼きやブリ大根などの調理したメニューにも向いている。旬は12月で、この時期のブリは「寒ブリ」と呼ばれて重宝される。
3. 富山や福井で違う?地方別の出世魚ブリの呼び名

出世魚であるブリはサイズにより呼び名が変化していくことがわかったが、さらに地域によっても異なる名称が用いられている。出世魚ブリは、それぞれの地方ではどのような名称で呼ばれているのだろうか。代表的なものを紹介しよう。
- 関東:ワカシ→イナダ→ワラサ→ブリ
- 山形:アオコ→イナダ→ワラサ→ブリ
- 静岡:ワカナゴ→イナダ→ワラサ→ブリ
- 関西:ツバス→ハマチ→メジロ→ブリ
- 富山:ツバイソ→フクラギ→ガンド→ブリ
- 福井:アオコ→ツバス→ハマチ(ワラサ)→ブリ
- 石川:コゾクラ→フクラギ→ガンド→ブリ
- 山陰:ツバス→ハマチ→マルゴ→ブリ
- 福岡:ツバス→ヤズ→ワラサ→ブリ
成長魚となったブリという名称はどの地方でも共通だが、成長過程においての呼び方はこのようにさまざまだ。聞いたことのないような名前も少なくないだろう。同じ出世魚でも、それぞれの地方特有の名称が存在するというのは興味深い。
4. ヒラマサとカンパチは出世魚ブリの仲間?

ブリに似たイメージがあるカンパチとヒラマサ。同じスズキ目アジ科の魚ということもあり「ブリ御三家」とも呼ばれている。見た目や食感、味わいもブリに近いのだが、じつはまったく別の魚なのだ。
ここからは、カンパチとヒラマサが、ブリとどの程度違うのかをまとめていこう。
ヒラマサの特徴とブリとの違い
ブリと見た目が似ているのが「ヒラマサ」。身体の真ん中に黄色のラインが入っており、外見だけではブリと見分けがつきにくい。しかし、ヒラマサのほうがブリよりも大きく成長するので、二つの魚を並べて、大きさを比べるのが簡単な見分け方だろう。身の部分も、ブリは血合いが多いのに対して、ヒラマサは少ない。しかも、ヒラマサは鯛のような白身なので、切り身にしても見分けがつくだろう。ヒラマサはカンパチ同様、脂身が少ないのでさっぱりした味わいがある。ブリよりも臭みがなく、食感もコリコリしている。年間を通して獲れる魚なので、好きな人も多いはずだ。
ブリと似ているヒラマサだが、出世魚ではないため成長に伴う呼び名の変化はない。地方により異なる名称を用いられることはあるが、出世魚としては扱われていない魚である。
ブリと似ているヒラマサだが、出世魚ではないため成長に伴う呼び名の変化はない。地方により異なる名称を用いられることはあるが、出世魚としては扱われていない魚である。
カンパチの特徴とブリとの違い
「カンパチ」はブリと同じスズキ目アジ科の魚で、ブリと比べると小さめだ。身体全体が金色に覆われており、ブリのように黄色のラインが身体にないので外見からは違いがわかりやすい。しかも、カンパチは目の部分に「漢字の八」を思わせる模様が入っており、ここから「間八(カンパチ)」と命名されている。白身が多く、ブリよりも脂が少ないので、さっぱりした味わいがある。このため、ブリのこってり感が苦手な人に、おすすめだ。カンパチは春頃に産卵を迎えるため、真夏が旬となっている。
また、カンパチもブリと同様に、成長とともに呼び名が変わっていく出世魚である。
また、カンパチもブリと同様に、成長とともに呼び名が変わっていく出世魚である。
5. 出世魚ブリの豆知識

ブリは出世魚であるがゆえに、名称の使われ方にも広い定義があったり、それぞれの段階を見分けるのが難しかったりもする。出世魚ブリについてより知識を深めるために、ぜひおさえておきたいポイントを紹介しよう。
「ハマチ」は養殖魚という意味合いもある
1955年以降、西日本で養殖業が盛んになり、養殖ブリをハマチほどの大きさになると出荷していたことから、全国にハマチの名が広がったともいわれている。このことから、大きさに関わらず、関東では養殖ものをハマチ、天然ものをブリと区別することも多い。関西では天然のハマチを食べることも珍しくない。
ブリとハマチの見分け方
ブリとハマチの違いを判別するのは、じつはとても難しい。よほど魚に詳しい人でないと、見分けられないという。しかし、刺身や切り身の状態で見ると、違いは一目瞭然だ。ブリは赤みが多く、色合いが暗いのが特徴だ。対してハマチは薄いピンク色がかった明るい色合い。食べてみると、ブリは脂身の少ない印象を受けるが、ハマチは脂がのっており弾力が強いのがポイントである。
ブリは白身でなく赤身
ブリは白身魚であるスズキが属するスズキ目の魚で、身も白っぽいため白身魚と思われがちだ。しかし、スズキ目のなかでも、アジと同じアジ科の赤身魚なのである。身が締まり脂がのっているため、刺身をはじめ、しゃぶしゃぶ、塩焼き、照り焼き、煮付けなどさまざまな料理に向いている出世魚である。
6. ブリ以外の出世魚の種類一覧

出世魚として有名なブリのほかにも、出世魚として扱われている魚は複数存在する。カンパチのほか、イワシ、スズキ、コノシロ(コハダ)、ボラなどが代表的な出世魚だ。ブリと同様に地方により呼び名は異なるが、主に関東で用いられている名称を紹介しよう。
- カンパチ
シオッコ(シオゴ)→アカハナ→カンパチ - イワシ
シラス→カエリ→コバイワシ→チュウバイワシ→オオバイワシ - スズキ
コッパ→セイゴ→フッコ→スズキ→オオタロウ(老成魚) - コノシロ
シンコ→コハダ→ナカズミ→コノシロ - ボラ
ハク→オボコ(スバシリ)→イナ→ボラ→トド(とくに大きいもの)
結論
出世魚であるブリは、成長過程において名称が変わる。しかも、地域により呼び名が異なるため複雑だ。初めて聞くような名前の魚が、じつは地域特有の出世魚の呼び名だったということもあるかもしれない。ほかの出世魚も同様だが、大きさの違いだけでなく、味にもそれぞれの個性がある。それぞれの成長段階の特徴を踏まえて、ぜひ美味しくいただきたい。