1. 和菓子の基礎知識
甘味と日本
現在では菓子というと砂糖を使った甘いものをイメージするが、昔はどうだったのだろう。実は砂糖を使用した菓子が広く出回るようになったのは、江戸時代以降。それ以前は、砂糖そのものがほとんど普及しておらず、ごく一部の上流階級のみが手にすることのできる非常に貴重なものであった。奈良時代頃までは、菓子は果物のことを差す言葉であったようだ。平安時代になると徐々に甘味が登場してくる。といっても、これも砂糖ではなく、ツタから作られた甘葛煎や玄米から作られた水飴が主流であった。
和菓子と唐菓子
遣唐使が日本に持ち帰った多くの文化のなかに、唐菓子というものがあった。これは米粉や小麦粉、大豆粉などに甘葛煎や水飴をいれて練り上げ、餅状にする、または揚げたもののこと。形も特徴的で、果実などを模したものが多い。なかには現在でも実在しているものがある。和菓子の創意工夫を凝らして作るという基礎はこの時代に生まれたのかもしれない。
和菓子と江戸時代
それまで長く続いた戦乱が落ち着き、ひとときの平穏が訪れた江戸時代は、茶道やそばなど、現在にも引き継がれている多くの文化が花開いた時代。和菓子も然り。これは江戸時代になり、砂糖の国内生産がはじまったことが大きな理由であると考えられている。まんじゅうや羊羹、美しい生菓子の数々が登場したのもこの頃。現存する老舗和菓子店の多くが、室町、江戸時代創業ということからも発展が伺える。
2. 和菓子と四季
日本は、四季がある。これは日本文化に大きく影響を及ぼしている。例えば、俳句の季語、季節ごとの節日など、季節を慈しむ文化がDNAに組み込まれているのかもしれない。和菓子もその一端を担っている存在である。旬の素材を使用するということにとどまらず、和菓子そのものに季節が宿っている節があり、見ただけで季節感を感じることができるものが多くあるのだ。
季節限定の和菓子
和菓子のなかには、その季節にしか食すことのできないものがある。例えば、ひな祭りに食べる桜餅、端午の節句に食べる柏餅、秋になると登場する栗を使った菓子などである。これは、季節の訪れを知らせてくれる存在でもある。
季節を表す和菓子
色や菓銘で季節を表現する和菓子は、上生菓子と呼ばれている。練り切りやきんとん、こなしなどと呼ばれる素材をベースに作られるのが一般的だ。布巾や竹のへらを使って手技だけで仕上げていくもので、和菓子職人としての技術力が問われる菓子でもある。季節を投影したその表情は、食べ物といえど、アート作品のよう。茶の席では主菓子と呼ばれ、欠かせないものである。
3. 和菓子の豆知識
菓銘とは?
和菓子には羊羹や饅頭という種類の名前ではなく、情緒を感じさせる菓銘が存在する。これは、短歌や俳句、花鳥風月、歴史、名所などに由来しているものが多く、菓子のテーマのようなもの。初雁、白梅、初ちぎりなど、一般的に広く使われているものから、店ごとにつけた独自のものまで、さまざまな名前が存在する。目で菓子を見て、耳で菓銘を聞き、菓子の作られたバックグラウンドに思いを馳せる風習は、なんとも日本らしさが滲んでいる。同じ菓銘であっても、表現する人によってその仕上がりは千差万別。同じ菓銘をいくつか買い求めて食べ比べるのも粋である。
結論
日本人の心が現れるような和菓子の世界。日本特有の四季を映し出すような存在でもある。和菓子で季節を感じる、そんな風流な楽しみ方をしてみるのもよいのではないだろうか?