1. 信田煮は油揚げを使った煮物

信田煮とは、油揚げを使って作られた煮物のことである。詳細は後述するが、油揚げを信田と呼ぶことからこの料理名がついた。使う具材は、油揚げ以外はとくに決まっていないが、一般的には野菜や山菜、豆腐、すり身などを開いた油揚げで巻いたものを和風の味付けで煮付ける。もしくは、袋状の油揚げに具材を詰めて煮て作ることもある。・巻いて作る信田煮は「信田巻き」とも呼ばれる
油揚げで具材を巻いたり包んだりした料理が信田煮の姿として定着しているが、必ずしも巻いたり詰めたりして作らなければならないという決まりがあるわけではない。刻んだ油揚げと具材を一緒に煮たものも信田煮というのだ。
2. 信田煮の名前の由来はキツネの伝説

なぜ油揚げを使う料理に信田とつけられるようになったのか。それには、油揚げがキツネの好物であるという言い伝えと、キツネが登場する伝説である「信太の森の伝説」が関係している。
信太の森の伝説
大阪府和泉市に信太(信田)の森という場所がある。安倍晴明の父である保名が、信太の森で狩人に襲われていた白ギツネを助けた。その白ギツネが葛の葉という女性に化け、保名と心を通わせるうちに妻となり子ども(安倍晴明)をもうける。ところが、やがて正体がバレてしまい、信太の森に帰っていったという切ない話だ。この信太の森の伝説は、人形浄瑠璃と歌舞伎の物語として知られる。とくに葛の葉が保名と晴明のもとを離れる際に残した「恋しくば尋ねても見よ和泉なる信太のもりのうらみ葛の葉」という歌は有名である。葛の葉に化けていた白ギツネは、「葛の葉狐」のほか「信田妻」「信太妻」とも呼ばれるそうだ。
このような油揚げといえばキツネ、キツネといえば信太の森の伝説という連想から、油揚げを使った料理に信田がつくようになった。この伝説のキツネが祀られる信太森葛葉稲荷神社には子宝や安産のご利益があり、現在もパワースポットとして人気を集めている。
ちなみに油揚げで酢飯を包んだものを稲荷ずしと呼ぶのは、キツネが稲荷神の使いだったことに由来している。
ちなみに油揚げで酢飯を包んだものを稲荷ずしと呼ぶのは、キツネが稲荷神の使いだったことに由来している。
3. 信田煮のほかにもある!「信田」の付く料理

信田という言葉は、油揚げを使った料理全般に使うことができる。信太の森がある大阪を中心にした関西では、信田煮のほかにも信田をつけて呼ぶことが多い。聞き慣れない料理名でもじつは日頃よく食べているものばかりだ。知っておくと豆知識として役立つ、信田がつく料理名の一部を紹介しよう。
- 信田うどん...きつねうどん
- 信田寿司...いなり寿司
- 信田和え...油揚げを使った和え物
- 信田丼...油揚げを卵でとじた丼
信田という表記も「信太」や「しのだ」、あるいは「篠田」「志乃田」などさまざまだ。もともと信太の森が由来だったことを考えると、信太と表記するのが正しいようにも思われるが、あまり気にしなくてもいいだろう。料理の呼び名にもさまざまな由来があるのは興味深い。
結論
信田煮は、白ギツネの伝説となった信太の森が名前の由来だった。大阪の郷土料理というわけではなく、関西での独特な呼び方ということがわかったが、信田煮自体を食べたことや見たことがないという人もいるかもしれない。副菜や弁当のおかずとしても活躍する家庭料理のため、ぜひ一度作ってみてほしい。
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