1. なめろうとは?
なめろうとは、魚のたたきの一種である。アジを使ったものが主流で、包丁などで細かくたたいたアジにネギ・ショウガ・味噌・しそなどを加えて粘りが出るまでたたいて仕上げる。多くの場合アジを使っているが、サンマやカツオなどを使って作られる場合もある。基本的には保存のきかない料理なので、作ったあとは新鮮さが損なわれないうちに素早く食べる。
2. なめろうの起源・発祥
なめろうの発祥は、千葉県の南房総地方といわれている。もともとは、海の上で漁師めしとして親しまれていたのだ。漁船の上は揺れが大きいうえにスペースが少なく、簡単な料理しか作れない。そのため、釣った魚をたたいて調味料を合わせるだけのなめろうは船上でも重宝される料理なのだ。手軽に作れるだけでなく、獲れたての魚の味を楽しめるのも魅力である。また、味噌が使われているのは揺れの多い船上でこぼれにくくするためである。ちなみに、千葉県だけでなく三重県にもなめろうが親しまれている地域がある。
3. なめろうの名前の由来
なめろうとは何とも不思議な名前だが、どんな由来があるのだろうか。ここでは、名前の由来を2つ紹介しよう。
その1.皿をなめるほど美味しいから
新鮮な魚を使ったなめろうは非常に美味しく、皿をなめたくなるほど。なめるほど美味しいために、なめろうと呼ばれた説がある。それほどにも美味しかったなめろうは漁師めしだけにとどまらず、家庭へと広まっていったのだ。
その2.なめないと食べられないから
たたいた魚は、たたき方の具合によって食感が変わる。粗めの場合には魚の食感がしっかり残るため、比較的さらりと食べることができる。一方で細かくたたいていくと、だんだんと粘り気が出てくる。そのため、刺身で食べるのとはまったく違う食感になるのだ。このなめらかな食感から、なめるようにして食べるためになめろうと呼ばれるようになった説もある。
4. 魚のたたきや「たたっこ」との違い
なめろうと似ている食べ物に、魚のたたきや島野浦の郷土料理である「たたっこ」などがある。ここでは、それぞれの違いを見てみよう。
その1.魚のたたきとの違い
魚のたたきは厚く切った刺身に味を付けたものや、たたいた魚に醤油などで味を付けたものを指す。たたきと比べてなめろうは細かくたたき、味噌で味を付けるのが特徴である。簡単にいえば、味噌で味を付けるものがなめろう、味噌以外で味を付けるのがたたきとされている。また、たたきは細かくしたものだけでなく、厚切りにした刺身状のものも指す。
その2.島野浦名物「たたっこ」との違い
たたっことは、宮崎県の島野浦に伝わる郷土料理である。魚を粘りが出るまでたたいたあとに味噌や玉ねぎ、ショウガや唐辛子を加えて仕上げる。なめろうとかなり似ている食べ物だが、ネギではなく玉ねぎを使うのが特徴。また、なめろうには使われない唐辛子が入っているのも違いの1つである。また、たたっこは白身魚やイカを材料にするのに対し、なめろうはアジを使うことが多い。
5. なめろうを使った郷土料理を紹介
なめろうはそのまま食べるのも美味しいが、さまざまな郷土料理にも使われている。ここでは、なめろうを使った郷土料理をいくつか紹介しよう。
その1.さんが焼き
さんが焼きは房総を代表する郷土料理の1つで、ハンバーグのように焼いて作る。漁師が船上で余ったなめろうを持ち帰り、海岸で貝殻に詰めて焼いたのが始まりだといわれる。なめろうを作り、ハンバーグのように成形してフライパンで焼いてもよい。
その2.房総揚げ(さんが揚げ)
なめろうを油で揚げると、房総揚げと呼ばれる料理の完成だ。魚や味噌の風味に加えて香味野菜の香りもよく、酒のつまみにもおかずにも最適だろう。房総揚げはさんが揚げとも呼ばれ、カリッとした香ばしい表面と中のジューシーさが美味しい。
その3.水なます
水なますは捌いたアジを刺身にし、しそ・ミョウガ・ショウガ・きゅうりなどと一緒に冷たい味噌汁に入れた料理だ。冷たい水に味噌を溶かし、薬味やアジを加えるだけで簡単に作れる。アジの刺身を入れて作るほか、なめろうを冷たい味噌汁に入れる作り方もある。地方によっては「ガワ」とも呼ばれている。
その4.孫茶(まごちゃ)
孫茶はなめろうをごはんにのせ、煎茶をかけて食べる料理である。なめろう茶漬けなどとも呼ばれ、煎茶だけでなく熱湯や出汁をかけて食べる場合もある。なめろうをのせるほか、刺身の状態で薬味や調味料を合わせて煎茶をかけても美味しい。
結論
なめろうは酒のつまみにも最適な料理で、アレンジ次第でさまざまな料理が作れる。新鮮な刺身さえあれば、簡単に作れるのも魅力的だ。なめろうを食べたことがない、作ったことがない人はぜひ一度食べてみてほしい。また、なめろうを使った郷土料理にもチャレンジしてみてはいかがだろうか。