1. 梅雨時のイワシは特別

イワシは安くて美味しい食卓の味方だ。年中見かけるが、旬は梅雨時。6月に入ると、全国に美味しいイワシが届けられる。
「入梅イワシ」はブランド品
千葉県の銚子港は、マイワシを始めイワシ類の水揚げが日本一だ。沖合では黒潮と親潮がぶつかり、年間を通して豊富に発生するプランクトンを食べてまるまると太ったイワシがとれる。特に6月~7月はプランクトンが増え、一段と脂がのって美味しい。これは「入梅イワシ」と呼ばれる銚子港のブランド品である。その人気は毎年「入梅いわし祭」が開かれるほどで、新鮮なイワシを食べようと多くの人が訪れている。
知る人ぞ知る絶品
イワシは魚偏に弱いと書くほど鮮度が落ちやすい魚だ。群れで逃げる際、ウロコを落として目くらましにする習性があるため、傷みやすい。しかし、入梅イワシは刺身で食べたいと、地元の祭りを楽しみにしている人が多い。銚子では、1艘ではなく何艘もの船でタイミングよくイワシを追い込み、力を合わせて捕獲するので傷みが少ない。漁獲量日本一のテクニックである。
2. 大衆魚から高級魚へ

イワシはもともと安くて美味しい大衆魚だった。ところが、最近ではマグロに匹敵する高級魚になることもある。
好漁、不漁の波が激しい
例えプランクトンが増える入梅時期でも、マイワシは漁獲量の振れ幅が大きい魚だ。また、マイワシバブルと呼ばれた1970年~80年台のイワシ漁獲量が年間100万トン以上だったのに対し、2005年はたった2万8000トンと0.6%まで落ち込んでいる。このため、2006年のイワシは1kg5,000円台と完全な高級魚になった。入梅イワシは美味しいから高いわけではなく、漁獲量で値段が決まる。最近では1匹200円~300円と安定したものの、大衆魚が一気に幻の魚になる可能性がある。
イワシでわかる海の状態
美味しい入梅イワシが獲れるかどうかは、銚子の海の状態をそのまま表している。水中のプランクトンは冷たい海域があってこそ増えるのだが、温暖化の影響でプランクトンが減り、イワシの漁獲量と価格に影響しているのだ。ただしイワシにとっては、個体数が少ないためエサの奪い合いが少ないというメリットもある。海水温が上昇すれば成長も早く、身質は向上。値段が高くてもますます美味しい入梅イワシに出会えるかもしれない。
3. まだまだいる!梅雨の水を飲む魚

6月から脂がのって美味しくなる魚は「梅雨の水を飲む魚」と総称される。イワシ以外にもたくさんの旬の魚がいる。
梅雨イサキ
南方でよく獲れる魚のため、東北以北ではあまりなじみがない。夜行性で、全長40cmほどになる。刺身や塩焼きのほか、洋風にムニエルにしても美味しい魚だ。イワシ同様、旬には梅雨イサキと呼ばれる。骨が鋭くて固いことが有名なので、子どもに与える際は
注意しよう。
注意しよう。
キス
和食で有名なキスも梅雨が旬だ。きれいな銀色の細長い魚で、全長は30cmほど。天ぷらやフライなどに相性がよく、旬の時期には開きで売っているので、自宅でも調理してみよう。
ハモ
大阪や京都で欠かせない、関西の夏の風物詩がハモ料理だ。本州中部以南でとれ、高級魚として知られている。旬の梅雨時は思い切って料亭へ食べに行く人も多いようだ。下処理や骨切りに高い技術が必要な、料理人泣かせの魚である。和食に最適だ。
結論
刺身、煮つけ、天ぷら、お吸い物と、和食にぴったりな魚が旬を迎える梅雨時。イワシは手開きでも簡単に処理できるため、自宅で挑戦してみよう。梅雨イサキやキス、ハモなどを店に食べに行くのも一興だ。雨が辛い季節だが、食材から旬を感じることができるのも日本の良いところである。