1. 種子島から熊本県へ、ブランドさつまいも【とろみついも】の運命
日本全国津々浦々で栽培されているさつまいも。わけても、日本における栽培では一日の長がある種子島のさつまいもは、ブランド中のブランドである。その種子島の高名な安納芋が、熊本県に移されて改良されたのが「とろみついも」である。
安納芋は種子島の専売特許ではない
種子島の安納地区を中心に栽培される安納芋は、ミネラルの多い種子島の土壌になじみ、類をみない甘さを持つさつまいもとして知られている。しかし、安納芋は別の地に移して栽培しても種子島産と同様の味わいが出にくいといわれてきた。このタブーに敢然と挑戦したのが、熊本県山鹿のある農家である。
2010年に「灯籠蜜芋」をブランド商標登録
この農家は2009年から種子島の安納芋の栽培を開始し、翌年には早くも「灯籠蜜芋」として商品化、ブランド商標登録している。本家の安納芋に勝るとも劣らない甘さが評判となり、さつまいも好きの間でじわじわと知名度をあげてきた。
未来を見据えたさつまいも栽培
とろみついもを生み出した農家では、肥料や農薬をなるべく使用しない栽培法でさつまいもをはじめとする農作物を生産している。これは、質のよい食材の生産とともに、子どもたちに健全な自然環境を残すためという農園主のポリシーにのっとっている。肥料や農薬の代用として竹パウダーを使用、苗の植え付けや仮堀りもすべて手作業で行っている。オーガニック農法は、地球環境を憂慮する世界中の農家が導入を始めている。その意味では、とろみついもは未来型のさつまいもなのである。
2. 地域活性化の一翼を担うとろみついもの特徴は?
熊本県山鹿でのみ栽培されるとろみついもには、発案者の地元への熱い想いが込められている。果たして、とろみついもは本家の安納芋に迫る品質レベルとなっているのか。とろみついもの特徴をみていこう。
とろみついも、旬と味わい
あまりの美味のため、品切れになることも珍しくないとろみついも。9月下旬から収穫されるとろみついもは、その後40日間熟成され出荷されていく。つまり、10月下旬から甘みののったとろみついもが出回ることになる。外観も味わいも、親である安納芋によく似ているといわれるとろみついもは、昨今人気のあるねっとり系のさつまいもである。火を通すと、実の部分がきれいなオレンジ色になるところもよく似ている。焼きいもにしたとろみついもは、見た目がすでにスイートポテトのような様相を呈している。発案者によれば、とろみついもはこのトロっとした甘みがウリだという。その甘さは、本家の安納芋に勝るとも劣らないと評判になっている。しかし、栽培は安納芋と同じように簡単ではなく、生産量がいまだに限られているのが惜しまれる。
3. 甘みを利用して、商品開発が急ピッチで進むさつまいも【とろみついも】
じっくりオーブンなどで火を通す焼いもとしての食べ方が、とろみついもの甘みを最高レベルで味わえる調理法である。短期間でとろみついもの商標登録、そしてブランド化に成功した野心的な農園主によれば、とろみついもによって地域の活性化につなげたいという強い想いがあったのだという。その想いは瞬く間に現実化し、2012年にはとろみついものアイスクリームが、2013年には焼酎と惣菜、そして菓子の商品も開発され販売が開始された。
結論
故郷と未来への強い想いが生み出したともいえるとろみついも。その甘さは、単に改良技術だけによるものではなく、作り手の清き想いがさつまいもに伝播したのかもしれない。種子島から山鹿の地へ根を下ろしたとろみついもは、新たな農業の形の体現として今後も注目されていくだろう。
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