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チーズ転がし祭りのチーズ【グロスター】とは?歴史や特徴を解説

チーズ転がし祭りのチーズ【グロスター】とは?歴史や特徴を解説

投稿者:オリーブオイルをひとまわし編集部

監修者:管理栄養士 藤江美輪子(ふじえみわこ)

鉛筆アイコン 2020年3月 9日

グロスターチーズはイギリスの有名な奇祭、「チーズ転がし祭り」の主役である。テレビやインターネットの動画で見たことのある人も多いだろう、転がるチーズとして有名だ。16世紀にはすでに作られて食べられていた記録がある、歴史とドラマのあるチーズなのである。グロスターチーズについて紹介する。

  

1. グロスターチーズとは

イギリスのイングランド南西部、グロスターシャー地方。グロスターチーズは、この地方にしかいないグロスター種という牛から搾乳するミルクで生産されてきた、ハードタイプのチーズである。グロスターには、シングルグロスターとダブルグロスターの2種類ある。この2つは兄弟のような存在だが、味わいが全く異なるのが面白い。簡単に違いを説明する。

シングルグロスター

シングルグロスターは、遠い昔の時代は自家消費用として作られていた。シングルグロスターは、ダブルグロスターを生産したときに残ったホエーを利用して作られる。販売用のチーズの、いわば残りかすを使ってつくられた農家のチーズであり、食感はボソボソとしていたといわれている。
それが現代、再開発され、しっとり美味しく生まれ変わっている。おだやかな酸味とミルクの優しい味わいに、ナッツのような風味がある、しっとりとした軽い食感のチーズである。

ダブルグロスター

濃厚なグロスター牛の全乳を使ってきたチーズ。濃厚でリッチな風味、しっかりとした生地だが、絹のような食感でマイルド、強いクセもなく食べやすい。もともとはグロスター牛から搾乳したミルクを使って、チーズ生産に最適な季節を狙って作られていたチーズだ。時期によって熟成度が違う、季節感のあるチーズだった。現代は保存方法もよいものがあり、1年中いろいろな熟成のものが楽しめる。
以前は天然の、オレンジに似た濃い黄色をしていた。後に、農家製から工場製が多くなるにつれ、この色は天然色素、アナトーで着色されるようになった。シングルグロスターよりもドライで固く、長期保存ができるので、輸送に向いたチーズとして世界中で人気がある。

2. グロスターチーズの歴史とは

一時、シングルグロスターは絶滅寸前であった。1900年代初頭、グロスターチーズおよびグロスター種の牛がほとんど存在しなくなった。とくに世界大戦の影響が大きく、グロスターチーズの生産はほとんど停止し、戦後もしばらくは、英国牛乳マーケティング委員会に規制されていた。ダブルグロスターのほうは、生産が比較的早く再開された。これは、ダブルグロスターのほうが、安定して保存性の高いチーズを効率よく生産することができたためである。シングルグロスターはこのまま伝統の灯が消えるかと思われたが、1970年代、1軒の農家によって復活をとげた。その農家は最後に残った40頭ほどのグロスター牛を保護したのだ。残念ながらシングルグロスターのレシピはほぼ失われていたが、残された文献などから再開発し、現在販売されているシングルグロスターに繋がったのだ。そしてもう1軒、伝統的なグロスター種の牛を守ろうと奮闘していた農家がいた。試行錯誤しながらシングルグロスターを再発明し、この2軒の農家の尽力によって、シングルグロスターは、過去の「貧しい農家のチーズ」から、さわやかでリッチな味わいのチーズに生まれ変わったのだ。

3. 「チーズ転がし祭り」とは

チーズ転がし祭りは、ロンドンから車で約3時間の場所、グロスターシャー州のクーパーズヒルで、毎年5月の最後の月曜日に行われる。なんとわかっているだけでも200年以上の歴史をもつお祭りなのだ。毎年多くの見物客がこの祭りのために訪れる。

丘の傾斜30度以上、長さ90m。この丘の頂上から、重さ約4㎏の円筒形のダブルグロスターチーズが勢いよく転がり落とされる。1秒後、人間もチーズを追いかけて丘を転がり出るのだが、転がるチーズは時速120kmにも達するという、なかなか追いつけるものではない。とにかく急な斜面を、チーズを追いかけて人間が駆け下り、バランスを崩した者から転がり落ちていくことに。見物客からは笑いと大きな拍手が沸き起こるのだ。チーズ転がし祭りは、参加者、見物客ともに危険すぎるということで、中止になっていた時期もある。だが地元の有志が安全ネットを張り、転がり落ちてきた人を受け止める役を配置するなど、安全対策をしながら開催を継続しているのだ。ちなみにこのお祭りでは、ダブルグロスターチーズが販売されている。優勝者にはチーズが贈られるが、それ以外の人達は初夏の思い出に購入していくのである。

祭りの起源は、ただの偶然、夏の始まりを祝う神事、また豊作を願う古代の儀式であったなど諸説ある。残念ながら決定的なものはいまのところ見つかっていない。

4. PDOとは

グロスターチーズのうち、シングルグロスターのみPDOという認証制度に申請・登録されている。PDOは、ヨーロッパ統一の品質認証システムで、「Protected designation of origin」の頭文字をとったもので、日本語で原産地名保護制度となる。チーズだけに限らず、ワイン、ハム、ビール、果物、野菜など、育った土地や気候、風土が、味わいに深く関係してくるものが対象である。原産地を定め、それ以外で作られた農作物との差別化を図り、原産地名称を保護するための制度である。PDOは認証条件がとても厳しく、チーズの名前が付いた場所で生産され、グロスターの場合はグロスターシャー地方で、伝統的なその土地独自の製法で作られたチーズに与えられる。条件は大変厳しいが、このマークがついているものは国が認めた本物である証明なのである。この証明によって、偽装や紛らわしいチーズの存在が少なくなることが期待されている。

結論

ダブルグロスターは工場製が多く、海外へ輸出される多くはこちらのタイプである。しっかりとしたハードタイプのチーズなので保存性も高く、輸送に向いている。一方、シングルグロスターはPDOを取得し、わずか数件の農家がこだわりの材料・手法で生産している、地元消費型の希少なチーズだ。同じ場所で生まれた兄弟のようなチーズなのに、特徴は全く違う。食べ比べをしてみると面白い。
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  • 公開日:

    2019年11月19日

  • 更新日:

    2020年3月 9日

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