1. 高知名産の酒盗とは?特徴や歴史も解説!
日本が誇る珍味のひとつが酒盗だ。そもそもどういった食べ物なのか、その歴史や美味しさの秘密、名前の由来など基礎知識からお伝えしていく。
魚のホルモンで作る塩辛が「酒盗」
酒盗とは、鰹や鮪のホルモン(胃や腸など)で作る塩辛のことだ。主な名産地は高知県と鹿児島県で、1700年代初頭には「酒盗」という名称で呼ばれていた記録がある。一般的な「塩辛」との違いは、塩辛は魚やイカの身・ホルモン、卵巣などが使われるが、酒盗は魚のホルモンしか使わないこと。また、酒盗は半年から1年以上漬け込んで作るため、通常のタレでは出せない独特なコクを味わうことができる。
おいしさの秘密は発酵にある
酒盗がおいしい理由は、魚のホルモンを発酵させることでうま味成分であるグルタミン酸(アミノ酸の一種)が増えるからだ。また、鰹には同じくうま味成分であるイノシン酸(核酸の一種)が多く含まれている。しかもうま味というのは、複数の成分が組み合わせることでより味がよくなる(※1)。鰹で作られた酒盗には二種類のうま味成分があるため、濃厚で非常においしい珍味になったのだ。
発酵食品なので保存がきく
長期間塩漬けして発酵させて作るため、酒盗の賞味期限は非常に長い。実際の賞味期限は商品によって異なるが、未開封の状態であれば製造日から約1年間保存がきくものもある。また、未開封なら直射日光を避ければ常温でも保存可能だ。なお、開封後は冷蔵庫で保管しつつ、なるべく早く食べきるほうがよい。
酒盗の名前の由来は?
酒盗の由来は、土佐藩の第12代目藩主の山内豊資(やまうちとよすけ)のひとことだといわれている。鰹の塩辛を食べた際に「このつまみはうますぎて酒を盗みおった」と絶賛したため、酒盗と名付けられたのだそうだ。その言葉の通り酒盗には「酒が進む」という意味に加えて、「酒を盗んででも飲みたくなる」という意味も込められている。
2. 気になる栄養面!酒盗の栄養価は?
独特な風味とうま味が特徴の酒盗は、鰹のホルモンを使っているためアミノ酸が豊富である。しかも肉類に比べると、脂肪分が少ないのも特徴だ。そのような酒盗の栄養面についても確認しよう。
酒盗の栄養価と成分一覧
- エネルギー:62kcal
- たんぱく質:12.0g
- 脂質:1.5g
- ナトリウム:5,000mg
- 食物繊維:0g
文部科学省の「日本食品標準成分表2015年版(七訂)」には酒盗の項目はなかったものの「塩辛(かつお類)」はあった。これを見ると100gあたりの主な栄養価は以上のようになっている(※2)。ひとつの参考になるだろう。
酒盗にはアミノ酸が豊富
上記の成分表ではわからないが、酒盗の原材料には鰹が使われているためアミノ酸が豊富である。9種類ある必須アミノ酸のうち、トリプトファンを除く8種類の必須アミノ酸を含んでいる。また、非必須アミノ酸であるアスパラギン酸、アルギニン、セリン、チロシンなども豊富だ。鰹自体のアミノ酸スコアは100と非常に優れており、そのことからも酒盗には良質なアミノ酸が多いことが伺える。
酒盗の低カロリー・低脂質が魅力
一般的なイカの塩辛に比べて、酒盗のほうが低カロリー・低脂質である。カロリーに関していうと、イカの塩辛は100gあたり117kcalであり、酒盗は62kcal。また、脂質に関してはイカの塩辛が3.4gで、酒盗が1.5gと、いずれも半分程度になっている(※2)。お酒のおつまみやご飯のおかずを選ぶ際にカロリーや脂質を気にする人も多いはずだ。この観点で選ぶならイカの塩辛よりも、鰹の酒盗のほうがいいかもしれない。
酒盗の塩分量には要注意?
栄養面に優れている酒盗ではあるが、その塩分量には注意が必要だ。酒盗には100gあたり5,000mgのナトリウムが含まれており、これは食塩相当量に換算すると約12.7gである。また、厚生労働省の「日本人の食事摂取基準(2020年版)」によれば、成人男性の1日の塩分摂取量は7.5gとされている(※3)。酒盗をたくさん食べてしまうと塩分過多になってしまう可能性がある。
3. 酒盗の種類と選び方のポイント!
かつては塩気のきいた辛口の酒盗が一般的であったが、最近は使用する塩分量を控えめにした甘口も販売されている。また、原材料には鮪や真鯛のホルモンを使った酒盗も作られている。このように最近ではさまざまな種類の酒盗が販売されているので、種類の特徴と選び方のポイントを確認しよう。
酒盗の「甘口」と「辛口」の違い
現在売られている酒盗には、塩分濃度が10%程度の「甘口」と20%程度の「辛口」がある。また、甘口の場合は酒やみりんも使われるが、辛口の場合は塩だけで作ることが多い。これらの特徴から一般的には甘口はご飯に合う酒盗で、辛口は日本酒に合うといわれている。酒盗好きは辛口を好むそうだが、初めて酒盗に挑戦するならマイルドな口あたりで食べやすい「甘口」を選ぶほうがいいだろう。
酒盗の「原材料」の違い
現在も多くの酒盗で鰹のホルモンを使っているが、最近は鰹以外の魚介を使った酒盗も増えている。たとえば、鮪の酒盗や真鯛の酒盗などだ。一般的に鮪や真鯛のほうが鰹よりもマイルドな口あたりだといわれている。また、単なる塩漬け以外にも、唐がらしや柚子を加えた酒盗も販売されている。
老舗の福辰が作る「飯盗」
高知県にある鰹商品の老舗店・福辰では、「飯盗(はんとう)」というブランドの酒盗を製造している。名前の通りご飯との相性がよい「飯盗味付」と、昔ながらの作り方にこだわった「飯盗本造り」がある。いずれも鰹のジキ(胃)だけで作っており、ほかの酒盗よりも風味と食感がいいそうだ。また、福辰では旬の鰹のジキを使った「極上鰹之塩辛」を10~2月頃に限定販売している。
4. 酒盗のおいしい食べ方とレシピを紹介!
名前の通り、酒盗はお酒のおつまみとしても非常においしい。また、最近は「和製アンチョビ」などの呼ばれ方もしており、料理の隠し味として酒盗が使われることも多くなっている。そこで酒盗をおいしく食べる方法や酒盗を使ったレシピなどを紹介しよう。
酒盗を酒で洗うツウな食べ方
辛口の酒盗をよりおいしく食べるなら、少量の日本酒で洗ってから食べてみるのがおすすめだ。塩加減を調整することで、そのまま状態よりもよりおいしく食べることができる。酒盗好き・お酒好きの「ツウ」な食べ方なので、ぜひお酒のおつまみにする際には試してみるといいだろう。
手軽な和え物やおつまみの作り方!
酒盗は野菜やクリームチーズなどとの相性がいい。たとえば、キュウリやほうれん草、キャベツなどと酒盗を和えるだけで、簡単に「和え物」を作ることができる。塩気がきいているためそのままでもおいしいが、しょうゆやごま油などで味付けするのもおすすめだ。また、サイコロ状に切ったクリームチーズの上に酒盗を乗せるのもマイルドでおいしい。手軽でおいしいおつまみに早変わりとなる。
パスタやチャーハンの隠し味に!
パスタやチャーハンの調味料として酒盗を使うのもおすすめだ。たとえば、アンチョビの代わりとして「ペペロンチーノ」のパスタソースに使うのもいい。また、チャーハンの場合は中華だしや鶏ガラの代わりに酒盗を使うのがいいだろう。鰹と発酵食品のうま味成分によって、深い味わいとコクをプラスすることできる。いつも通りの作り方で、味付けだけ「酒盗」を使うようにしてみよう。
この記事もCheck!
5. 自家製酒盗に挑戦してみよう!
商品として売られている酒盗は、鰹のホルモン(胃や腸など)を取り出して約1年間かけてじっくりと塩漬け・熟成させて作られている。そんな手間がかかる酒盗ではあるが、実は家で作ることも可能である。もし新鮮な鰹が手に入ったら、以下の酒盗の作り方を参考にしながら挑戦してみるといい。
自家製酒盗の作り方
- 鰹からホルモンを取り出して、薄い塩水で優しく丁寧に洗う
- 軽く塩を振ってからザルに取り、一晩冷蔵庫の中で寝かせる
- 一晩寝かせたホルモンの水気をペーパータオルでしっかりと取る
- ホルモンを細かく切って、煮沸消毒した密閉容器に詰め込む
- ホルモンの量に対して10~20%程度の塩をまぶし冷蔵庫で漬け込む
- 数週間(できれば半年程度)の間冷蔵庫で熟成させれば完成となる
注意!自家製酒盗を作る際はアニサキスなどの食中毒を予防しよう!
新鮮な鰹の内臓には、アニサキス(寄生虫の一種)の幼虫が寄生していることが多い。アニサキスの幼虫は長さ2~3cm、幅0.5~1mmの白っぽい糸のような見た目をしており、人の体内に入ると胃や腸の壁に刺さって激しい腹痛を伴う食中毒を引き起こす。そのため、基本的に「魚の内臓は食べないように」とされている(※4)。
アニサキスを予防するには「目視で幼虫を除去すること」と「十分に冷凍または加熱をすること」が重要。自家製酒盗の場合は冷凍するのがよく、-20℃以下で24時間以上冷凍する必要がある(※4)。家庭用冷蔵庫は-18℃以下になるようJIS規格で決められているため(※5)、温度設定を「強」にして冷凍室を-20℃に維持しよう。
また、細菌性食中毒など、アニサキス以外の食中毒にも注意が必要だ。鰹を調理するときは手や調理器具(まな板・包丁など)を十分に洗い、鰹を入れる保存容器は煮沸消毒などをしておこう。なお、熟成させた自家製酒盗から異臭などがする場合は、万が一のことを考えて破棄することも検討したほうがいいだろう(※6)。
アニサキスを予防するには「目視で幼虫を除去すること」と「十分に冷凍または加熱をすること」が重要。自家製酒盗の場合は冷凍するのがよく、-20℃以下で24時間以上冷凍する必要がある(※4)。家庭用冷蔵庫は-18℃以下になるようJIS規格で決められているため(※5)、温度設定を「強」にして冷凍室を-20℃に維持しよう。
また、細菌性食中毒など、アニサキス以外の食中毒にも注意が必要だ。鰹を調理するときは手や調理器具(まな板・包丁など)を十分に洗い、鰹を入れる保存容器は煮沸消毒などをしておこう。なお、熟成させた自家製酒盗から異臭などがする場合は、万が一のことを考えて破棄することも検討したほうがいいだろう(※6)。
結論
土佐が生んだ珍味・酒盗は、その名前の通り「酒を盗んでしまうほどうまい」ことが特徴だ。また、鰹由来のうま味・風味を活かせば、和食・洋食を問わずさまざまな料理に使うことが可能である。好んで買う人を除けば食べたことがない人も多いかもしれないが、「おいしいお酒のおつまみが食べたい」「新しい味付けに挑戦したい」ということがあれば、ぜひ酒盗を食べてみるといいだろう。
(参考文献)
- ※1:日本うま味調味料協会 「うま味の成分」
https://www.umamikyo.gr.jp/knowledge/ingredient.html - ※2:文部科学省「日本食品標準成分表2015年版(七訂)」
https://fooddb.mext.go.jp/ - ※3:厚生労働省 「日本人の食事摂取基準(2020年)」
https://www.mhlw.go.jp/content/10904750/000586553.pdf - ※4:厚生労働省「アニサキスによる食中毒を予防しましょう」
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000042953.html - ※5:日本産業標準調査会「JIS規格詳細画面 電気冷蔵庫及び電気冷凍庫」
https://www.jisc.go.jp/app/jis/general/GnrJISUseWordSearchList?toGnrJISStandardDetailList - ※6:内閣府大臣官房政府広報室「食中毒を防ぐ3つの原則・6つのポイント」
https://www.jisc.go.jp/app/jis/general/GnrJISUseWordSearchList?toGnrJISStandardDetailList