1. 行者にんにくとはどんな山菜?
行者にんにく(ぎょうじゃにんにく)はヒガンバナ科ネギ属の山菜で、にんにくやニラの仲間だ。味や香りはニンニクのようだが、シャキシャキとしたみずみずしい食感が特徴である。東日本側のさまざまな地域で収穫されており、とくに北海道で多く収穫されている。また、行者ニンニクが育つまでには5年ほど必要とするため、天然物は希少価値が高い。近年は栽培物の行者にんにくも増えている。
行者にんにくの名前の由来は?
行者にんにくの名前の由来は諸説ある。一番有力なのは「修行していた行者(僧)が、ニンニクの香りがする野草を食べて生気を養っていたから」という説だ。つまり、行者が食べていたニンニク(のような植物)であることから、行者にんにくと名付けられた。また、行者にんにくには別名も多く、たとえば北海道ではアイヌの人々が食べていたことから「アイヌネギ」とも呼ぶこともある。
行者にんにくの旬はいつごろ?
天然の行者にんにくは4月~5月が旬といわれている。ハウスで作られた栽培物は1月頃から出荷され始めるが、天然の行者にんにくは3月頃から徐々に出回るようになる。そして、5月末にかけてピークを迎えて、6月初旬には収穫時期は終了する。新芽の状態で収穫できる期間が約2週間と限られていることも関係して、天然物は非常に希少性が高いとされている。
行者菜との違いは何?
行者と名前がついた野菜の一つに「行者菜(ぎょうじゃな)」がある。この行者菜は行者にんにくとニラを交配させた野菜であり、「収穫期間が短い」という行者にんにくの欠点を解消したものだ。ニラのような見た目をしているが、味や香りは行者にんにくに近い。現在は山形県長井市を中心に複数の地域で栽培されており、生産地にある道の駅やECサイトなどで購入可能となっている。
2. 行者にんにくの栄養価とニンニクとの違い!
行者にんにくは、βカロテンやカリウムなどの栄養素を多く含む。また、ニンニク臭のもとであり、さまざまな働きがある「アリイン」も多く含んでいる。同じネギ属であるニンニクやニンニクの芽の栄養価と比較しつつ、行者にんにくの栄養面の特徴を確認していこう。
行者にんにくの栄養価一覧
文部科学省「日本食品標準成分表2015年版(七訂)」によれば、行者にんにく(葉・生)の栄養価は以下のとおりになっている(※1)。
- エネルギー:34kcal
- たんぱく質:3.5g
- 脂質:0.2g
- 炭水化物:6.6g
- ビタミン
・βカロテン:2,000μg
・ビタミンK:320μg
・葉酸:85μg
・ビタミンC:59mg - ミネラル
・ナトリウム:2mg
・カリウム:340mg
・カルシウム:29mg
・マグネシウム:22mg
・リン:30mg - 食物繊維:3.3g
(・水溶性食物繊維:0.5g)
(・不溶性食物繊維:2.8g)
βカロテンがニンニクの芽の約3倍!
行者にんにくには、100gあたりビタミンAの一種である「βカロテン」を2,000μg含んでいる。βカロテンが豊富なニンニクの芽の710μgと比較すると(※1)、その含有量は約2.8倍。非常に多くのβカロテンを含んでいるといえる。βカロテンは体内でビタミンAに変わり、主に目を守ったり正常に働かせたりすることをサポートする(※2)。ほかにも抗酸化作用があるとされている(※3)。
ビタミンKがニンニクの芽の約6倍!
行者にんにくは、100gあたり320μgのビタミンKを含んでいる。これはニンニクの芽の約5.9倍に相当する含有量で(※1)、約50g食べれば1日の成人男性の摂取目安量を満たすことが可能だ(※2)。ビタミンKは血液凝固を活性化したり、骨形成を調整したりする働きがある。なお、健康な人が通常の食事をしている場合は、ビタミンKが不足することはないとされている。
ニンニク臭のもとである「アリイン」も豊富!
普通のニンニクほどではないにしろ、行者にんにくにもニンニク臭の原因でもある「アリイン」が多く含まれている(※4)。アリイン自体は無臭であるが、すりつぶして細胞が壊れると「アリシン」という物質が生じる。これが強烈なニンニク臭となる。アリインのまま摂りたいなら醤油漬けなどがよく、アリシンで摂りたいなら切ったりすりつぶしたりしてから食べるとよい。
3. 行者にんにくの選び方と摘み方のポイント!
天然物は少なく希少価値はあるけれど、春の山菜である行者にんにくを採ることは可能だ。しかし、タラの芽やコシアブラといったほかの山菜に比べると、山菜採りの難易度は高め。また、地域によっては天然物を保護するために収穫を禁止していることもある。もし天然物が見つからない場合は栽培物を購入することも検討しよう。
行者にんにくの見つけ方
行者にんにくは全長20~30cm程度で、きれいな緑色をした葉っぱが1~2枚程度生えていることが特徴である。また、根っこに近い茎の部分は赤っぽくなっている。そんな行者にんにくは自生する場所が決まっていないため、なかなか見つけることができない。しかし、群生を見つけることができれば大量に収穫できる可能性もあるため、山の中では木の陰などもていねいに探すほうがよいという。
行者にんにくの選び方
行者にんにくを選ぶときは「葉の開き具合」と「茎の太さ」を見るのがポイントだ。葉の開き具合は香りの強さに関係し、一般的には葉が開く前のほうが香りは強いとされている。また、茎は太いほうが歯ごたえがよいため、最もおいしいといわれている。そのほか、スーパーなどで市販の行者にんにくを買う場合には、切り口はみずみずしいか、葉先までしっかりと伸びているかもチェックしよう。
行者にんにくの摘み方
行者にんにくを見つけることができたら、太さ1cm程度の若い茎部分だけを採ろう。根っこまで採ってしまうと、翌年以降に行者にんにくが採れなくなるので注意が必要だ。また、茎が細く葉が1枚の場合は成長途中であるため、その茎を収穫してしまうとほかの山菜採りの迷惑になる。今後のことも考えて成長段階にある行者にんにくの採取は控えよう。
危険!コルチカム(イヌサフラン)との間違いに注意!
ハウス栽培されている市販の行者にんにくは安全だが、自分で山菜採りに行く場合は行者にんにくとコルチカム(イヌサフラン)とを間違わないように注意しよう。コルチカムは有毒な植物で、過去にはコルチカムによる死亡事故も発生している(※5)。東京都健康安全研究センターなどのサイト内でも違いを詳しく解説しているため、しっかりと確認したうえで安全に山菜採りを行おう(※6)。
4. 行者にんにくの下処理・あく抜き方法
タラの芽やコシアブラなど他の春の山菜とは異なり、行者にんにくは下処理(あく抜き)が不要である。しかし、和え物にしたり、冷凍保存したりする場合は下処理したほうがよい。下処理は以下のとおりに行おう。
- 行者にんにくについた汚れを水で洗い流す
- お好みで根元の赤い部分(ハカマ)を取り除く
- 水を沸騰させた鍋に行者にんにくを根元から入れる
- 全体的にしんなりとしたらザルにあげる
- 冷水で十分冷やし、水気をきれば完了
5. 行者にんにくのおいしい食べ方3選
味も香りも食感もいい行者にんにくは、天ぷら、おひたし、和え物、炒め物、醤油漬けなどさまざまな方法で食べられてきた。そんな数多くある食べ方の中から、とくにおすすめの三つを紹介する。
行者にんにくの天ぷら
ほかの春の山菜と同様、行者にんにくも天ぷらにするのがおすすめだ。ニンニクのような香りとシャキシャキとした食感が絶妙にマッチするため、行者にんにくをおいしく食べることができる。てんぷらの衣に軽くくぐらせて揚げるだけなので調理も簡単。出来立てを塩でサッパリと食べるのが格別だ。
行者にんにくの酢味噌和え
行者にんにくの酢味噌和えは、一般的な食べ方としても知られる。また、具材にタコやワカメを使うのもおすすめだ。5cm程度に切った行者にんにくと味噌・酢・砂糖で作ったタレを混ぜ合わせれば完成だ。酢味噌和えにするときには、軽く下処理をすると食感などがよくなるのでおすすめだ。
行者にんにくの醤油漬け
行者にんにくの醤油漬けも代表的な調理方法の一つだ。行者にんにくを好みの大きさにカットし、湯通してから水をよくきり保存用の瓶やタッパーに入れる。行者にんにくが浸るまでしっかりと醤油を入れれば完了だ。一晩漬ければ食べることができ、ご飯のおかずやお酒のおつまみにピッタリだ。
6. 行者にんにくを長期保存するための方法は?
ほかの春の山菜に比べると、行者にんにくは比較的保存がきくほうだ。冷蔵保存や冷凍保存が基本だが、先ほど紹介した「醤油漬け」にすれば1年程度保存することができる。ここでは行者にんにくの冷蔵保存と冷凍保存のそれぞれのやり方を紹介する。
行者にんにくを冷蔵保存する場合
行者にんにくを冷蔵保存する場合は、1週間程度保存が可能だ。特別、下処理などは必要ないので、行者にんにくの根元を水でしめらせたキッチンペーパーや新聞紙で包み、野菜室に立てた状態で冷蔵保存するとよい。
行者にんにくを冷凍保存する場合
行者にんにくを冷凍保存する場合は、1か月程度保存が可能である。冷凍する場合は下処理をしてからのほうがよい。そして、十分に水気を切ってからジップロックなどに入れて冷凍庫で保存しよう。冷凍した行者にんにくは香りが落ち着くので、ニンニク臭が苦手な人にもおすすめだ。また、調理するときは20秒程度お湯で溶かすと、ちょうどいい食感や風味を楽しむことができる。
結論
「幻の山菜」と呼ばれることもある行者にんにく。その香りや味はニンニクに近く食欲をそそり、シャキシャキとした食感はクセになる。北海道や東北地方など寒い地域では天然物もあるようだが、現在はあまり採ることができない。もし食べたいなら春の季節に栽培物などを探してみるのもいいだろう。天ぷら、酢味噌和え、醤油漬けなど、さまざまな食べ方でそのおいしさを楽しむことができる。
【参考文献】
- ※1:文部科学省「日本食品標準成分表2015年版(七訂)」https://fooddb.mext.go.jp/
- ※2:厚生労働省「日本人の食事摂取基準(2020年)」https://www.mhlw.go.jp/content/10904750/000586553.pdf
- ※3:厚生労働省 e-ヘルスネットhttps://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/
- ※4:山梨衛公研年報「にんにく製品の判別法に関する検討」(1994)https://www.pref.yamanashi.jp.c.aao.hpcn.transer-cn.com/eikanken/documents/vol38-4.pdf
- ※5:農林水産省「野菜・山菜とそれに似た有毒植物」https://www.maff.go.jp/j/syouan/nouan/rinsanbutsu/leaflet.html
- ※6:東京都健康安全研究センター「ギョウジャニンニクとイヌサフラン(有毒)」http://www.tokyo-eiken.go.jp/assets/plant/inusahuran.htm
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