1. 熟れ鮨の一種

柿の葉寿司はれっきとした寿司だが、今の主流である江戸前寿司=握り寿司とは違う。寿司の元祖である「熟れ鮨(なれずし)」のため、すぐ食べる鮮度が命の、今の寿司とは違った特徴を持っている。
元々は塩鯖を使っていた
江戸時代、現在の和歌山や三重南部にあたる紀州藩から奈良県にあたる大和地方へ鯖の行商が行われていた。当然、鯖は傷まないように紀州の漁師が腹に塩を詰めて送っていたが、大和に到着する頃には塩気がきつくなりすぎて、そのままでは食べられない。
そのため、薄く削ぎ切りにして飯と一緒に食べる方法が編み出された。それが大和地方特産の柿の葉に包んで保存する方法へと変化した。当時は発酵させており、今であれば腐っていると勘違いしかねない匂いと、糸を引く粘りがあったらしい。
そのため、薄く削ぎ切りにして飯と一緒に食べる方法が編み出された。それが大和地方特産の柿の葉に包んで保存する方法へと変化した。当時は発酵させており、今であれば腐っていると勘違いしかねない匂いと、糸を引く粘りがあったらしい。
昔の柿の葉寿司は「糸引き」だった!
当時の「柿の葉寿司」の飯はおにぎり大と、かなり大きめだ。塩鯖の切り身を乗せてひとつずつ柿の葉で包み、桶の中にぎっしり詰めて重しをかける。3日寝かせ、発酵が始まり飯が糸を引いたら(現代からするとかなり、きわどい)食べ頃である。今では考えられないが、発酵の酸味がきいた「熟れ鮨」で、そこからさらに3日位は食べられる。現在では酢飯を使い、昔と同様に重しをかけて作る。やはり、日が経つごとに味の変化を楽しめる。
2. 柿の葉の効果

柿の葉に食べ物を包む保存技術は、伝統的に名産地では広く伝わっている。これが柿の葉寿司誕生につながった。
高い殺菌効果
柿の葉が身近に大量にあったから包んでみた、という天然のサランラップ方式が生んだ伝統技術だが、実は柿の葉にはポリフェノールの一種であるタンニンが豊富でビタミンCも多い。抗菌・抗酸化作用が強く、保存性に一役買っていたのだ。
ねかせると食べ頃
柿の葉にはルチン、グルコサイド、ケンフェロール等の有効成分が含まれ、重しをかけて熟成する過程でその成分が柿の葉の風味と共に寿司に移る。柿の葉の保存性を高める為に塩漬けしている場合もあり、紅葉した葉を使ったものは目にも鮮やかだ。
3. 柿の葉寿司の種類

よく目にするのは奈良の柿の葉寿司だが、全国各地に郷土色のある柿の葉寿司が伝わっているようだ。
代表格は奈良、和歌山
奈良・和歌山県内に昔からの老舗があり、各店舗によって工夫がされているようだ。誕生してから200年以上経つが、「柿の葉で包んで重しをする」スタイルは変わらない。古くは塩鯖しか無かったが、明治時代以降は鮭・鯛・海老・穴子などバリエーションが増えている。
石川県の柿の葉寿司
石川県の柿の葉寿司は主に家庭で秋祭りに作られる郷土料理だ。広げた柿の葉に鯖、鮭、鰤、鯨の皮などを乗せるのが昔からのやり方である。その上から酢飯を重ね、上から紅ショウガや桜海老、青藻海苔を乗せて目にも美しい仕上がり。包むというよりは舟形に潰して乗せてある。
鳥取県智頭(ちず)地方
やはり広げた柿の葉に、塩漬けの鱒鵜をさらに酢で〆てからご飯を重ね、アクセントに山椒を効かせてある変わり種だ。海から離れた智頭では柿の葉だけでなく塩漬け、酢〆、山椒の保存・殺菌効果を狙ったのだろう。
結論
鮮度が大切ですぐ食べる握り寿司は「早寿司」という。酢が登場してから現代ではこの早寿司がメインになったものの、海から遠い地方では昔から魚を食べるための工夫が続けられていたのだ。熟れ鮨は熟成するまで時間がかかりすぐに食べることは出来ないけれど、保存性があり握り寿司にはない魅力がある。柿の葉寿司を食べる時は、先人の工夫に思いを馳せながら頂きたいものだ。
この記事もCheck!