1. 長野県のさば缶愛

海なし県である長野県のスーパーでは、ほかの地域と品ぞろえに違いがある。さば缶コーナーがだいぶ幅を利かせているのだ。水産加工会社のマルハニチロの長野営業所によると、さば缶の出荷量は、長野が日本一だという。いまでは内陸といえども、日本中で鮮魚も手に入る世の中になってはいるが、そのような便利さだけでは、長野県のさば缶愛は揺るがない。長野県で鯖缶の消費が多いのは、単に保存がきく加工品だからというわけではないのだ。
ブームよりもずっと前からさば缶を愛用してきた長野では、ほかの地域とは違い、サラダとしてシンプルにそのまま食べることはあまりないそうだ。ちなみに、さば缶の売上がぐんとアップするのは、初夏だという。そして、それは味噌汁に使われるというのだから驚きだ。
2. タケノコ汁という名の味噌汁

なぜ初夏にさば缶を使った味噌汁が作られるのか。それは、その季節に、夏の風物詩であるネマガリダケが採れるからである。
長野の北部において定番なのが、ネマガリダケとさば缶を使った味噌汁「タケノコ汁」である。缶詰の中の油や水気をきることなく、そのまま投入するのが、味の決め手になるという。さばの出汁がしっかり出るので、かつお節などで出汁を取る手間がかからない。また、さば缶とタケノコとの相性はバツグンのため、長野県ではさば缶の消費量が多いのではないかと考えられている。さらにここに卵が入ることもあるという。具沢山なごちそう感がウケているようだ。県外の人には驚きの味噌汁の具であろう。
作り方は、さばの水煮缶とネマガリダケに水を加えたものを火にかけて、沸騰したら火を弱めて煮込む。その後味噌を入れるといった簡単レシピである。ねぎを加えて仕上げる。
3. カレー、そうめん、ばらずしにさば缶を投入!

さば缶の利用法でほかにも人気なメニューを紹介しよう。
さばカレーは、肉の代わりにさばの缶詰を入れている。かき混ぜて身を崩しすぎないように、ゴロゴロ感を出すことを心がける。簡単にコクが出るので長時間煮込まなくてもいいというメリットがある。レシピにはトマトとの相性がいいようで、トマトの水煮缶やフレッシュトマトが入っていることが多い。
また長野ではないが、山形の内陸では、うどんにさば缶と納豆を入れたものが「ひっぱりうどん」と呼ばれ愛されている。夏場は、そうめんにこのコンビを投入する。これは体力が低下しがちな夏のたんぱく源になるという。
そして海に囲まれ、幻のブランドガニである間人(たいざ)ガニで知られる京丹後市では、さばの缶詰をおぼろにしてばら寿司に入れている。昔は鮮魚のさばを使っていたようだが、いまは手軽な缶詰が使われるようになったそうだ。
結論
さば缶は、いまやツナを抜くほど人気の魚の缶詰となったが、海なし県では昔からしっかり消費されていた。味噌汁、カレーといったデイリーなメニューで使われているので、消費量が多いのだ。また内陸部の山形でも、麵に投入するさば缶の消費が多く、京丹後では郷土料理に使われている。これらのエリアでは、さば缶に熱を加えて、しっかり調理して楽しむのだ。コクが出て、出汁が出るさば缶の活用法は先人から伝えられている。