1. 甘いとうもろこしが食べられるまで
日本でとうもろこしは古くから食べられていて、1579年ポルトガルの宣教師が伝えたもののひとつといわれている。やせた土地でもよく実り、まずは九州や四国で定着し、ナンバンキビと呼ばれたそれは、江戸時代にはもう全国的に食べられていたようだ。しかし、この時時代に食べられていたのは、フリントコーン(硬粒種)、ワキシーコーン(糯種)で、粒を粉にして、米や粥に混ぜたて炊いたり、もちに混ぜたりして食べていた。甘みが少なく、貴重な食糧であったが雑穀であり、また飼料用としてのとうもろこしであった。現在のとうもろこしのように、茹でて食べることもできたが、長く茹でる必要がありしかも硬く、貧しさの中仕方なく食べていたものである。
スイートコーン
明治時代になって、スイートコーン(甘味種)である「ゴールデンバンダム」を、北海道の農事試験場が導入した。それまでの、「貧しいゆえに食べなければならかったとうもろこし」のイメージを一新したそれは、瞬く間に日本中に広まっていった。ここからようやく甘いとうもろこしの歴史が始まったのだ。いまでもとうもろこしの主流はスイートコーンである。
スイートコーンの問題点
そんな甘くて美味しいスイートコーンだが、扱いが難しい野菜でもあった。収穫してすぐに糖度が下がってしまうのだ。とうもろこしを食べるときは、湯をたっぷり沸かしてから畑にもぎにいけといわれるほどだった。この課題を意識して輸入されてきたのが、ハニーバンダムだ。神奈川県の大手種苗会社が1971年に販売を開始した。従来のスイートコーンより、収穫してから糖度が下がるまでのタイミングが遅く、甘いまま消費者の手元へ届けることができるようになった。以来、ハニーバンダムは日本の夏のおやつとして、いまでも愛されている。
2. ハニーバンダムとその仲間
ハニーバンダム
ハニーバンダムはスーパースイート種(高糖型)の先駆けであり、日本にやってきたのは1971年のことである。黄粒種で光沢のある粒は大きくて甘みが強い。ハニーバンダムの大きな特徴は、なんといっても収穫してから、数日甘みが持続することだ。味が変わらないということは、流通するにあたってとても大切なことで、ハニーバンダムは革新的な品種であった。しかし、ハニーバンダムには皮が硬いという欠点があった。現在、当たり前のように皮の柔らかいとうもろこしを食べているが、当時のとうもろこしは口の中に硬い皮が残り、歯に挟まって大変食べにくいものであった。
ピーターコーン
ハニーバンダムを品種改良し、栽培されたといわれている。いまでも商品名「ハニーバンダムピーターコーン」として、種子が販売されている。ハニーバンダムの皮が硬い問題を克服すべく発表された。バイカラー種で、黄色の粒と白の粒が、メンデルの法則に従って一定の比率で現れるという、見た目もユニークだ。黄色一色であったほかのとうもろこしと明確に見分けがつき、印象的である。1985年頃に市場にあらわれたが、発売3年目にして、市場を席捲したといって過言ではない人気ぶりであった。
ハニーバンダム20
一代限りの種の取れない雑種である。収穫日数が78日と、極早生のとうもろこしだ。これも30年以上愛されてきた品種である。背丈が低く160cmほど、スイートコーンの早生種中では、一番早い収穫ができる品種だ。粒は大きめで噛みごたえがある。生で食べられるほど甘いとうもろこしが主流の現在は、こういうしっかりとした味は逆に新鮮に感じる。
ハニーバンダム早生200
収穫日数90日程度。糖度は高く食味もよい。実は長さが20cm前後となり、重さは400gと大きめ、粒は黄色でまさに粒ぞろいだ。ほかのハニーバンダムに比べて、茹であげてもシワになりにくい特徴がある。
ハニーバンダムピーター種
そのほか、バイカラー種のシリーズがある。どんな作型でも安定して栽培できるハニーバンダムピーター235、大型の実ができるハニーバンダムピーター445、耐暑性があり病気にも強い、夏に種をまき秋に収穫することもできる、ハニーバンダムピーター610がある。
ハニーバンダムは定番品種、ロングセラーといわれているが、こうして適地適作ができるよう、日々改良が加えられてきた。味だけではなく、こういった姿勢も、安定した人気を支えているのだろう。
3. ハニーバンダムの美味しい食べ方
とうもろこしは採れたてが一番甘い。甘みが失せにくくなったとはいえ、時間が経つにつれて、美味しさが失われていくのは間違いない。もしすぐに食べきれなくても、加熱してから保存しよう。
ゆできび
お湯から茹でると実がシャキリとした食感に、水から茹でると、ふっくらする。茹でるときは、皮を完全にむききらず、2~3枚残しておくようにしよう。茹でるときに皮が、風味が抜けるのを防いでくれる。5分弱茹でたら、塩を加えて、湯につけたまま冷ます方法と、湯からあげて皮をむき、実に塩をすりこむ方法がある。味付けはそのとうもろこしの甘さをみて加減しよう。
焼きもろこし
アルミホイルを敷いてグリルするのがいい。余計な水分は出ていき甘みだけが残り、香りもよくたつのだ。適度に火が通ったら、バターと醤油・みりん・砂糖などを合わせたタレを塗り、香ばしく焦げ目をつける。茹でるより時間がかかるが、ハニーバンダムは皮が厚いとうもろこしなので、焼きもろこしにぴったりなのだ。もっと簡単にしたければ、生のハニーバンダムをラップにくるみ電子レンジで先に加熱したものを、フライパンなどでタレを絡めるように焼いても美味しい。
結論
発売から何十年もたつが、いまでも愛されるハニーバンダム。人によっては懐かしいと感じるかもしれない味わいだ。甘みと柔らかさを重視する昨今のとうもろこしと、また違う美味しさ、噛みごたえが魅力だ。ハニーバンダムをみつけたら、ゆできびや、焼きもろこしに挑戦してみてはどうだろうか。
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