- 雑念を去り、仏道修行に専心すること
- 一定の期間行いを慎み身を清めること
- 肉食を断って菜食をすること
- 一つのことに精神を集中して励むこと。一生懸命に努力すること
- 調理方法:生、煮る、焼く、揚げる、蒸すの5種類
- 味付け:五味(苦、酸、甘、辛、醎※塩辛い)+淡味の六味
- 色合い:赤、白、緑、黄、黒の五色
- 完成度:三徳
- 軽軟:食べやすい硬さや大きさ
- 浄潔:清潔でさっぱりとした見た目
- 如法作:順序や方法を守った丁寧な調理
- 音を立てない:食べることに集中するため
- 姿勢を正す:正しい姿勢は食べ物と向き合うために必須である
- 器を両手で丁寧に扱う:食べる所作が美しくなる
- 食べ物を口に入れたら箸を置く:目の前の一皿と向き合うことが大切である
- 器をお湯やお茶できれいにする:食べ終わったら器にお湯やお茶を注ぐ。飲み干すことで器がきれいになり、米粒なども無駄にならない。美しく食べるという意識も生まれる
1. 精進料理とは
精進料理とは、簡単にいうと仏教の伝来により生まれた料理である。そのため、仏教の精神に強く影響を受けている。植物性の食材のみを使用して作られているのが特徴だ。現在も、お寺や宿坊などで提供され、ベジタリアンやヴィーガン、健康志向の人々からも好まれている。
精進の意味
小学館「デジタル大辞泉」(※)によると、「精進」には下記のような意味がある。
仏教の精神となる、「雑念を去り修行に専心し、身を清め、精神集中し努力する」という心の在り方が、精進という言葉に込められている。また、肉食を断ち菜食をするという食に関する内容も明記されている。食べることも修行という教えにより生み出されたのが、精進料理なのである。
2. 精進料理の歴史
精進料理は、仏教の精神に基づき生み出された料理である。中国から仏教が伝わるとともに、精進料理が日本で食べられるようになった。どのような歴史があるのか、詳しく見ていこう。
中国での成り立ち
中国では仏教が広まる以前から、精進料理が食べられていたといわれる。神への信仰や感謝を表すために、一定期間肉を食べないという習慣ができたことが由来とされる。仏教徒が増え始める430年頃には中国全土に精進料理が広まった。肉のほか、アルコールを禁ずる考えも定着していく。精進料理が広まるにつれ、現在食べられているものと近い内容となっていったようだ。
日本への伝来
鎌倉時代、中国の当時の王朝であった宋から帰国した僧侶により、日本にも仏教(禅宗)とともに精進料理が伝えられた。肉食禁止令の影響下、当時の日本にも精進料理に近い料理はあったが、さらに魚なども禁じられる菜食のみの食事が定着する。当初はしっかりとした味付けの精進料理だったが、やがて道元禅師により薄味の料理が伝えられ、江戸時代に入り定着していったそうだ。また、僧侶が食事を作ることも修行の一環という教えも、併せて伝えられたという。
3. 精進料理の特徴
精進料理は仏教の戒律に基づいて作られるため、下記のようにさまざまな制限があるのが特徴だ。
肉や魚を使用しない
仏教の「無益な殺生をしてはならない」という戒律により、肉や魚を使用が禁じられている。出汁としてのかつお節の使用もNGとされる。宗派によって差異はあるが、卵、乳製品、ゼラチンなど、一切の動物性食品を使用しない場合も多い。
五辛を使用しない
五辛(五葷)とは、にんにく、ねぎ、にら、らっきょうなどネギ科の野菜のことである。においや刺激が強いのが特徴で、欲情や怒りの心を起こす食べ物とされる。また、食欲を増進させる食材でもある。いずれも仏教の「煩悩を持ってはならない」という戒律に反するため、精進料理には使用できない。
酒を使用しない
アルコールも、煩悩を刺激する中毒性の高いものとして、仏教においては禁じられていた。酒をそのまま飲むのはNGだが、料理酒としてアルコール分を飛ばして使用することは可能とされている。
4. 精進料理の作法
精進料理を調理する行為や食べる行為も、仏教における修行の一環とされる。そのため、調理の作法や食べ方のマナーも重要である。
調理
道元禅師が伝えた教えによると、精進料理を作る人(典座)には三心をもつことが求められる。三心とは、「喜心(作る喜び、もてなす喜び)」「老心(思いやり、気配り)」「大心(おおらかさ)」とされる。そのうえで、食材への敬意、道具を丁寧に扱い整理整頓を心がけること、食べる人のことを思って調理すること、手間や工夫を惜しまないことなどを作法としている。
また、近年は厳守を求められないが、調理におけるルールも下記のように示されている。
食べ方
宗派により異なるが、基本的には下記のような作法がある。
5. 精進料理の例
植物性食品を使用して作られた精進料理には、さまざまな種類がある。とくに有名でよく用いられる代表的な料理を紹介しよう。
ごま豆腐
すりつぶしたごまを、水溶き葛粉と合わせて固めて豆腐のような形状に仕上げた料理である。栄養源としても昔から用いられてきた、精進料理の代表的な一品だ。
ふろふき大根
厚切りにした大根をやわらかく炊き、甘味噌や柚子味噌をつけて食べる料理である。面取りや下茹でなど手間がかかり、出汁のやさしい味わいを楽しめる。
野菜の筑前煮
旬のさまざまな野菜を合わせた煮物で、薄味に仕上げることで素材の味が生きる。野菜のほか、高野豆腐やこんにゃくなどを使用することが多い。
野菜の天ぷら
精進揚げともいわれる定番料理で、茄子やれんこんなどの野菜のほか、さつまいも、しいたけなどで作られることが多い。また、衣に卵を使用しないことも特徴である。
けんちん汁
汁物の定番で、さまざまな種類の根菜を煮込む。昆布や干ししいたけを合わせた精進出汁で作るのが一般的だ。醤油味のほか、味噌仕立てにしたものもある。
結論
精進料理は仏教の教えに基づき生み出された料理である。食も修行という考えから制約も多く、堅苦しい印象を抱かれることもある。しかし、思いやりの心や食と向き合う心などを学べる料理ともいえるのではないだろうか。精進料理の歴史に触れることは、日頃の食生活を見直し、よりよいものへと変えていける機会にもなりそうだ。
(参考文献)
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