1. 国産牛の秘密

まずは牛肉の分類について大まかに説明しよう。黒毛和牛とはただの「品種名」だ。国産だから和牛とは限らないのである。
国産牛の定義
輸入牛とは、アメリカ、オーストラリアから輸入された牛肉のことだ。国産牛とは、月齢の半分以上を日本で飼育された牛のことをいう。つまり、海外の牛を輸入して日本で追加飼育すれば、それは最終的には「国産牛」になるのだ。
乳牛と肉牛
ホルスタインを代表とする乳牛と、食肉用の肉牛は誰でも想像できるだろう。このうち、肉牛は「交雑牛」と「和牛」に分けられる。驚くことに、日本で一般的に販売されている食肉用国産牛の70%が、乳牛用ホルスタインの雄を去勢したものである。これらはもちろん交雑牛の部類に入る。
「和牛」は4種類だけ
国産の「和牛」と称される牛はエリート中のエリートだ。血統がすべてであり、「黒毛和種」「褐色和種」「日本短角和種」「無角和種」の4種類しか和牛を名乗ることができない。黒毛和牛の認知度が高いのは、市場に出回る和牛のほとんどを黒毛和牛が占めているからだ。
2. それぞれの和牛の特徴

たった4種類の和牛だが、それぞれ肉の味や特徴が違う。それぞれの和牛についてご紹介しよう。
王道の黒毛和牛
国内の和牛のなんと90%が黒毛和牛である。肉質は脂肪が入りやすく、しかも軟らかい。霜降り肉が好きな日本人にとって相性がよく、世界で唯一の「血統管理」がされている牛だ。10ケタの個体識別番号がつけられ、どんな祖先か、どこの牧場で飼育されたかを追跡可能だ。肉質は血統・月齢・飼料ですべてが決まるとされるため、この血統追跡システムは、確実に美味しい肉を絶やさないための効率的なシステムなのである。
赤身ブームで大注目の希少種
黒毛和牛がほぼすべての状態だが、飼育頭数はそこから褐色和種・日本短角和種・無角和種と続く。褐色和種はその名の通り赤牛で、熊本や高知産。赤身中心だが適度な脂肪が入る。日本短角和種は東北の牛で、岩手を中心に秋田や青森で飼われている。放牧スタイルで育てられた短角和種は脂肪があっさりしているのが特徴だ。無角和種は山口県阿武郡で飼育されており、2015年7月段階でわずか
182頭である。赤身なのにコクがある肉質で、絶滅回避が最大の目標となっている。
182頭である。赤身なのにコクがある肉質で、絶滅回避が最大の目標となっている。
3. 全国各地で「ブランド牛」

日本では各地で独自飼育した「ブランド牛」もブームになっている。黒毛和牛以外も健闘しており、飼料や飼育環境、各農家の熱意でオリジナルの和牛が飼育されている。
赤身肉ブームが後押し
霜降り肉だけでなく、赤身肉がブームの昨今。日本各地の大自然の中で放牧された特徴が、ブランド牛の肉質にそのまま反映されている。林や畑で放牧した牛の肉は脂肪が少なく、軟らかすぎない風味の豊かな赤身肉が育つ。また、人工授精ではなく自然繁殖に任せるところもあるそうだ。
飼料に一工夫
国産牛といえどもそのほとんどが輸入飼料を与えられている。飼料の自給率はわずか12%だ。国産飼料100%にするには、驚くほどのコストと手間が掛かる。国産飼料は脂肪の味がしつこくない、上品な肉になるそうだ。その他の飼料としてはビールが有名だが、ワインの搾りかす、りんご、パイナップルなどさまざまなものが与えられている。
結論
和牛は本当に奥が深い。各地のブランド牛は、確実に肉の味に個性が出る。もし赤身を味わいたいなら、黒毛和牛以外の和牛で放牧スタイルのものを探してみよう。脂肪がとろける霜降りも美味しいが、赤身は肉そのものの味が楽しめるだろう。