1. ムロアジとは?
ムロアジとは、広義にはアジ科ムロアジ属の青魚全般を指す。主な特徴は、背ビレと臀ビレの後ろ側にそれぞれ「小離鰭(しょうりんき)」と呼ばれる小さなヒレを持つこと。また、側面の後ろ側(尾側)に「稜鱗(ぜんご)」と呼ばれる鋭いトゲ状のウロコがあることなどが挙げられる。このような特徴を持つムロアジ属では、ムロアジ・アカアジ・マルアジなどの種類が有名である(※1)。
狭義のムロアジについて
学名上「D. muroadsi」と呼ばれている狭義のムロアジ(室鯵)はムロアジ属の代表種であり、おなじみの真アジに並ぶ代表的なアジである。しかし、干ものやあじ節などに加工されることが多く、産地以外では鮮魚として見かけることは少ない。そのため、実際には知らない人も多いという。夏に多く出回るが冬にかけて段々と脂が乗っていくため、冬のムロアジは格別な美味しさを誇っている。
ムロアジの由来と地方名
ムロアジの名前の由来には、「播磨国室の津(兵庫県たつの市)でよく獲れたから」という説、「和歌山県牟婁群でよく獲れたから」という説、「くさや液のことを「魚室(むろ)」と呼んでいたから」という説などがある。また「ムロ」の音が変化してモロ・モロアジなどと呼ばれているほか、地方によってはアカゼ・アジサバ・ウルメ・マムロなどのような名前で呼ばれることもある。
ムロアジの漁獲量と主な産地
農林水産省の「漁業・養殖業生産統計」によれば、2019年(令和元年)のムロアジ類の漁獲量は1万5,900トンであった。また、都道府県別に見ると最も漁獲量が多いのは宮城県の6,100トンであり、全体の約38.4%を占めていた。2位以下は長崎県(3,100トン)、兵庫県(1,700トン)、高知県(1,200トン)、和歌山県(1,100トン)となっており、上位5県で全体の約83%を占める(※2)。
2. ムロアジの基本的な栄養価
青魚であるムロアジは、DHA(ドコサヘキサエン酸)やEPA(エイコサペンタエン酸)などの不飽和脂肪酸を多く含んでいる。また、たんぱく質やビタミンB群も豊富。そこで文部科学省「日本食品標準成分表2020年版(八訂)」を参考に(※3)、生のムロアジ100gあたりの栄養価を確認しよう。
ムロアジ(生)100gあたりの栄養価
- エネルギー:147kcal
- たんぱく質:23.6g
- 脂質:6.9g
- 炭水化物:0.4g
- 脂肪酸
・飽和脂肪酸:1.79g
・一価不飽和脂肪酸:1.11g
・多価不飽和脂肪酸:1.66g
・EPA:350mg
・DHA:900mg - ビタミン
・βカロテン:0μg
・ビタミンD:6.0μg
・ビタミンE:0.6mg
・ビタミンK:0μg
・ビタミンB1:0.18mg
・ビタミンB2:0.32mg
・ナイアシン:15.0mg
・ビタミンB6:0.57mg
・ビタミンB12:13.0μg
・葉酸:5μg
・パントテン酸:0.74mg
・ビタミンC:0mg - ミネラル
・ナトリウム:56mg
・カリウム:420mg
・カルシウム:19mg
・マグネシウム:35mg
・リン:280mg
・鉄:1.6mg
・亜鉛:1.0mg
・銅:0.13mg
・マンガン:0.02mg - 食物繊維:0g
3. ムロアジの加工品のDHAとEPA含有量
生のムロアジは、100gあたり「900mgのDHA」と「350mgのEPA」を含んでいる。しかし、以下にまとめているとおり、加工・調理するとムロアジのこれらの栄養価は低くなってしまう(※3)。
ムロアジの加工品のDHAとEPA一覧
- 焼き:DHA770mg、EPA300mg
- 開き干し:DHA800mg、EPA310mg
- くさや:DHA460mg、EPA100mg
「くさや」にするとDHAやEPAは減少する
焼きや開きの場合はそこまで減ることはないが、くさや液に浸けてから乾燥させる「くさや」の場合はDHAが半分程度、EPAが3分の1以下になる。なぜくさやのDHA・EPAが減ってしまうのかはわかっていないが、「調理や加工によりDHA・EPAの量が変化する」ということは覚えておこう(※4)。
4. 干物のムロアジの美味しい食べ方2選
生のムロアジの流通量は多くないため、刺身などで食べたい場合は産地に行ったり、釣りに行ったりする必要がある。ただ、干物やくさやは比較的簡単に手に入る。ここでは干物のムロアジの美味しい食べ方を紹介する。
食べ方1.ムロアジの混ぜご飯
焼いたムロアジをほぐして、ご飯に混ぜるだけの簡単リメイク料理である。ムロアジの引き締まった食感と干物ならではの塩加減がちょうどよく、いつものご飯が一段と美味しくなる。お好みでカリカリ梅・塩昆布・大葉・白ゴマなどを混ぜ合わせると、風味や食感もよくなりさらに美味しくなる。
食べ方2.ムロアジの冷や汁
暑い夏の季節が旬のムロアジを使って、冷や汁を作るのもおすすめだ。作り方は味噌とだしで作ったスープにほぐしたムロアジ、みょうが、キュウリなどを合わせるだけ。これでムロアジのうま味が広がる夏にピッタリの冷や汁が完成する。食欲が落ちているときでも、美味しく食べることができる。
5. ムロアジの干物のおすすめ入手方法
鮮魚のムロアジは入手が難しいが、ムロアジの干物やくさやなどは鮮魚店やネット通販などでも入手が可能となっている。そこでこれらの入手方法についても詳しく確認しておこう。
入手方法1.鮮魚店
ムロアジの干物やくさやは鮮魚店で購入することが可能だ。例えば、築地市場であれば「都水産」や「魚がし北田 北田水産」などで取り扱っているという(※5)。スーパーなどではムロアジの干物を見かけることが少ないため、こうした鮮魚店や干物の専門店などで探してみるとよいだろう。
入手方法2.ネット通販
より簡単にムロアジの干物やくさやを手に入れたいなら、ネット通販を利用するのがおすすめ。干物の専門店が運営しているオンラインショップをはじめ、Amazon・楽天市場のようなECモールでもムロアジの干物の取り扱いがある。さまざまなムロアジがあるので、気になるものを探してみよう。
結論
干物やアジ節に加工されてしまうため、生のままでは見かけることの少ないムロアジ。しかし、実は真アジよりも引き締まった身が特徴で、噛めば噛むほどうま味が増す美味しい魚である。干物は焼いても美味しいが、混ぜご飯や冷や汁などのアレンジ・リメイク方法もあるのでこちらも試してみるといいだろう。
【参考文献】
■※1:カゴシマネイチャー「内之浦湾から得られた北限記録のサクラアジ」
https://www.museum.kagoshima-u.ac.jp/staff/motomura/2017_05_Sakuraaji.pdf
■※2:農林水産省「海面漁業生産統計調査」
https://www.maff.go.jp/j/tokei/kouhyou/kaimen_gyosei/index.html
■※3:文部科学省「日本食品標準成分表2020年版(八訂)」
https://fooddb.mext.go.jp/
■※4:長崎大学教育学部自然科学研究報告「魚のエイコサペンタエン酸及びドコサヘキサエン酸含量に及ぼす調理方法の影響(第2報)」
https://ci.nii.ac.jp/naid/120005231404
■※5:築地場外市場「仕入れなんでも相談」
https://www.tsukiji.or.jp/professional/inquiry/2017/07/p1646/
■※1:カゴシマネイチャー「内之浦湾から得られた北限記録のサクラアジ」
https://www.museum.kagoshima-u.ac.jp/staff/motomura/2017_05_Sakuraaji.pdf
■※2:農林水産省「海面漁業生産統計調査」
https://www.maff.go.jp/j/tokei/kouhyou/kaimen_gyosei/index.html
■※3:文部科学省「日本食品標準成分表2020年版(八訂)」
https://fooddb.mext.go.jp/
■※4:長崎大学教育学部自然科学研究報告「魚のエイコサペンタエン酸及びドコサヘキサエン酸含量に及ぼす調理方法の影響(第2報)」
https://ci.nii.ac.jp/naid/120005231404
■※5:築地場外市場「仕入れなんでも相談」
https://www.tsukiji.or.jp/professional/inquiry/2017/07/p1646/
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