1. 夏のエネルギー源となりうるいわしの梅煮
宮本輝の代表作『流転の海』には、主人公の妻が巧みなる料理の才を示すためにいわしの梅煮を作るシーンがある。かつては安価な食材であったいわしと梅を使った美味は、おふくろの腕のみせどころだったのかもしれない。また、夏から秋にかけて美味しくなるいわしは、夏の栄養源としても大いに活躍したようである。
栄養価が見直されつつあるいわし
いわしは、かつては日本の海でありあまるほどの漁獲量を誇っていたため、下魚として富裕層は敬遠するきらいがあった。「鰯の頭も信心から」という格言にもあるように、いわしは取るに足らないものの代表であったのである。近年、いわしの豊富な栄養価が認められると同時に、いわしはすっかり不漁になってしまった。
梅によってさらに美味しくなるいわし
夏から秋にかけて美味しくなるいわしは、酸味をもつ梅を加えることで夏の料理にふさわしくなる。また、いわしの臭みも梅の酸味によって消え、さらに骨まで食べられるほど柔らかく煮ることができるという作用があるのである。日本古来の健康食品である梅干し、成人病予防にもつながる栄養価を誇るいわしのとのマッチで、いわしの梅煮は美味しさという点だけではなく健康の分野においても注目されるようになったのである。
2. いわしの梅煮の作り方
作るのが面倒で複雑な手順がありそうないわしの梅煮。じつは、非常に簡単にかつ時短でできる料理である。料理した後と、冷蔵庫で数日は保存ができるのもありがたい。基本的ないわしの梅煮の作り方をみてみよう。
時短に近いシンプル料理
主役となるいわしと梅干しのほかに、必要なものは生姜、醤油、酒、みりんなどなど、自宅にあるものばかりである。いわしを煮るための液を作り生姜とともに鍋でわずかに煮つめ、そこにいわしと梅干しを投入する。落しふたをして7分ほど煮ればできあがる。食べる際には、ミョウガや大葉を加えるとさらに風味を増す。また、調理した直後よりも翌日からのほうが味がしみて美味しくなる。もちろん、圧力鍋を使っても身と骨がほろほろになるいわしの梅煮ができる。真夏のうっとうしさを払うために、山椒や唐辛子で食べても大人の味になる。
いわしの梅煮の食べ方
小ぶりの魚は骨を取るのが面倒という人にとっても、骨まで食べられるいわしの梅煮は食べづらさがない一品である。骨が気になる人も、梅煮にすることで身離れがよくなるために苦労なく食べることができる。ごはんにも酒にも合うため、家族で楽しめるだろう。また梅干しもいわしと煮ることでさらに美味になるので、食欲がないときにはこの梅干しと白いごはん、あるいはおかゆにしてもよい。これに、白ごまや大葉を加えればより食べやすくなる。
3. いわしの梅煮を炊き込みごはんに
できあがったいわしの梅煮は、そのまま食べても十分に美味しい。また、炊き込みごはんにするという手もある。いわしの梅煮を作った煮汁も使用して、いわしと梅を洗った米の上にのせて炊飯器で炊くだけである。炊きあがったら、いわしも梅も細かくほぐしてごはんに混ぜればできあがる。好みで七味をかけたりミョウガをのせたりして、夏らしく食べることができるだろう。出汁巻き卵や野菜たっぷりの味噌汁とともに、和食を極めてみるのも乙である。また、いわしの梅煮は、煮沸した瓶に保管すれば1ヶ月は冷蔵庫で保存が可能である。ちょっと一品足りないな、というときには栄養価の面でも活躍してくれるおかずとなることまちがいない。
結論
かつては、夏の食卓の常連でもありおふくろの味代表でもあったいわしの梅煮。近年はいわしが不漁で、少しずつ高級料理になりつつある。しかし、その豊かな味わいと高い栄養値は、健康ブームの昨今、再び脚光を浴びている。飽食の時代だからこそ、日本に伝わるこうした庶民の美味を伝え続けていきたいものである。
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