1. 精密発酵とは

精密発酵とは、微生物を使って、主に特定の動物性たんぱく質を量産する技法のこと。精密発酵に使用される微生物は、特定の動物性たんぱく質を生成するように、あらかじめカスタマイズされている。
精密発酵によって大量に生産されている例としては、チーズを作るのに必要なレンネットが有名である。レンネットは、まだ乳を飲んでいる子牛の胃に含まれているたんぱく質分解酵素のキモシンを主成分とする酵素の混合物で、チーズを凝固させ、チーズ特有の風味をもたせる働きがある。しかしレンネットを抽出するためには、子牛を屠畜して胃を取り出す必要があった。そのため、レンネットを大量に生産するためには、大量に子牛を屠畜しなければならず、動物愛護の観点から問題視されていた。
そこで登場したのが、精密発酵によるレンネットの生産だった。精密発酵を使えば、子牛を屠畜することなく大量にレンネットを作ることができる。いまでは、世界のレンネット生産量のおよそ45%程度は、精密発酵によるものといわれている。
精密発酵により、動物を使うことなく、お目当ての動物性のたんぱく質を大量生産することが可能になった。精密発酵の技術は、非動物性の乳製品や卵などの代替食の生産にも用いられているようだ。
2. 精密発酵と発酵食品の違いについて

精密発酵と発酵食品の違いは、発酵食品は食品だが、精密発酵は主に特定のたんぱく質を作り出すための技法であって食品ではないということになるだろう。
もちろん、精密発酵も発酵食品も発酵に深く関わる微生物を使うという点においては、共通しているといえる。ただ、精密発酵に使用する微生物は、特定のたんぱく質を生成するために、あらかじめカスタマイズされている点も違っているといえそうだ。
精密発酵と発酵食品は、名前が似ているとはいえ、まったくの別物と考えてよさそうだ。
精密発酵と発酵食品は、名前が似ているとはいえ、まったくの別物と考えてよさそうだ。
3. 精密発酵のメリット

精密発酵のメリットは主に以下の通りだ。
効率よく特定の成分を量産できる
精密発酵の技術を使えば、動物を使うよりも、はるかに効率よく特定の成分を大量に作ることができる。前述のように、チーズ作りに必要なレンネットを大量生産するためには、大量の子牛が必要になる。そのためには、まずは親牛を飼育しなければならないし、子牛を産んでもらうまでそれ相応の時間もかかる。精密発酵の場合は、微生物を使えばいつでも短期間で必要な量を生産することが可能だ。
消費者のそれぞれのニーズに合わせて最適な商品を提供できる
味、アレルギー、栄養価など、消費者それぞれのニーズに合わせて、発酵に関わる微生物をカスタマイズすることで、最適といえる商品を作り出すことが可能だ。
動物や環境に優しい
精密発酵によって、屠畜される動物を大幅に減らすことができる。また動物を飼育するのには、飼料、水、エネルギー、土地などが必要になるが、精密発酵により、それらの天然資源の消費を大幅に抑えることもでき、結果的に環境にも好影響を与える。
サスティナブルな食料システムの構築が望める
ある意味最大のメリットといえそうだ。従来の食料を生産供給するシステムでは、将来的に供給が需要に追いつかなくなるおそれがあるといわれている。そのため、最近では、持続可能を意味するサスティナブルという言葉が、がぜん注目されるようになっている。精密発酵の技術を使えば、将来に渡って持続可能な食料システムの構築が望める。
結論
精密発酵がいったいどんなものなのか?発酵食品との違いや、精密発酵のメリットについてお伝えした。ご理解いただけただろうか?まだまだ開発に乗り出す企業は少ないものの、精密発酵は、より効率的、より健康的に、持続可能な食糧システムを構築するための大きな可能性を秘めているといえそうだ。
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