目次
- (※1)内閣府大臣官房政府広報室 政府広報オンライン https://www.gov-online.go.jp/featured/201106_02/index.html
- (※2)厚生労働省 カンピロバクター食中毒予防について(Q&A) https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000126281.html
- (※3)鳥取県 ノロウィルス食中毒の予防 https://www.pref.tottori.lg.jp/222982.htm
1. 鶏肉を安全に食べるためのゆで時間は?

生の鶏肉には、数種類の食中毒菌が潜んでいる可能性がある。代表的なのは、カンピロバクターという病原菌で、肉の鮮度に関わらず、流通している鶏肉の5~7割程度に付着しているといわれている。さらに、菌が付着しているかどうかは見た目では判断できないため、生肉を扱う際は常に食中毒のリスクがあると思っていたほうがいいだろう。食中毒菌の多くは35度前後でもっとも繁殖しやすく、10度以下で増殖が遅延し、-15度以下で停止する。(※1)しかし、低温で増殖が停止しても死滅していないので、常温に戻すと再び増殖してしまう。購入後はなるべく早めに加熱調理するのがおすすめだ。
基本は75℃以上で1分間
家庭で気をつけるべき食中毒菌のほとんどは、75度以上で1分間加熱するとほぼ死滅する。(※2)しかし、1分間というのは鶏肉のゆで時間ではなく、あくまでも菌を75度以上にさらす時間であるということがポイントだ。湯にさっとくぐらせる程度では肉の表面に付いた菌しか死滅せず、中心部に菌が残っている状態であることが多いので注意したい。肉の中心部までしっかりと火をとおすには、より十分なゆで時間が必要になってくる。
鶏肉のゆで時間の目安
鶏肉のゆで時間は、どれくらいが適切なのだろうか。前提として、お湯の温度が54度を下回ると殺菌効果が弱まり、菌を死滅させることができるのは、75度以上とされている。それと同時に、鶏肉を構成するたんぱく質は、70度以上で硬くなる性質があるということを理解しよう。手順としては、鶏肉を水から火にかけ、沸騰させる。沸騰後は弱火に3分かけて裏返し、さらに再沸騰後3分加熱し、ふたをしてそのまま冷ます。上記のゆで時間はあくまで目安となるため、中までしっかりと火がとおっているかを必ず確認することが大切だ。
2. しっとりゆで鶏のゆで時間

食中毒菌の殺菌効果が現れるのが54度以上、死滅する温度が75度である。しかし同時に、70度以上で肉のたんぱく質が凝固しはじめるということを説明した。鶏肉は、ゆで時間が長いほどカンピロバクターなどの殺菌効果は高まるのだが、それに比例して肉が硬くパサパサとした食感になってしまうので、適切なゆで時間を見極めるのが実は難しい。ここでは、しっとりとしたゆで鶏に仕上げるための、3パターンのゆで方を紹介しよう。鶏肉の種類やレシピによって作り方を工夫してみてほしい。
沸騰してからゆでる場合
沸騰したお湯に、小さじ1~2程度の塩を加え、鶏もも肉を鍋に入れる。お湯が再びグツグツとしてきたら、肉をひっくり返し、もう1度沸騰させる。十分に再沸騰したことを確認し、ふたをして火を止め、30分ほど余熱で加熱する。30分経ってから、肉の厚くなっている部分の中心温度を計り、火がとおっているかを確認しよう。火の通りが十分でない場合は、もう一度お湯に戻してさらに10分程度余熱にさらすとよい。ポイントは、ゆで時間と、沸騰したお湯に塩を加えること、お湯の量はたっぷりと使うこと。鶏もも肉300グラムに対し、水1.5リットル、塩小さじ2程度が目安だ。
水からゆでる場合
水からゆでる場合は、塩で下味をつけた鶏胸肉を、酒と一緒に火にかける。沸騰したら、弱火で3分ゆで、裏返してさらに再沸騰後、弱火3分で加熱したら、ふたをしてそのまま冷ます。弱火と余熱でゆでた鶏胸肉はしっとりジューシーに仕上がる。作り置きにも最適で、冷ましたら汁ごと保存容器に入れ、冷蔵庫で保存できるのもうれしい。パスタのトッピングにしたり、ごまダレをかけてバンバンジーにしたりと、おかずのバリエーションが一気に広がる。
低温でゆでる場合
コンビニエンスストアで人気のサラダチキンのような鶏ハムのレシピには、低温調理がおすすめだ。鶏胸肉を2センチ程度の厚みになるようにカットしてから、塩と砂糖で下味をつけ、冷蔵庫で30分置いておく。30分後、取り出した鶏胸肉をラップでしっかりと巻き、沸騰したお湯に入れる。再沸騰したら裏返し、再び沸騰したら火を止め、ふたをし余熱で火を通せば完成だ。加熱終了後は必ず中心温度を確認しよう。前述のとおり、余熱のあいだに54度以上が保たれていれば、殺菌効果がキープできるので、低温調理では温度管理に気をつけることで、安全に調理することができる。
3. 中心がピンクの鶏肉はゆで時間不足?

しっかりと火を通したつもりでも、鶏肉の中心部がピンク色になっていて、ゆで時間不足なのかと不安になることがあるかもしれない。このような状態の時、安全に食べられる場合とそうでない場合があるので、確認方法や注意点をみてみよう。
安全に食べられるケース
鶏肉の中がピンク色の場合でも、安全に食べられるケースは主に2つある。ひとつは骨付き肉の、骨の穴から脊髄液がしみ出て赤くなっている場合だ。鶏肉の骨の中には、血液を作るための脊髄液があり、加熱しても変色しにくく、赤色のまま漏れ出して骨の周りの肉を染めてしまうことがあるのだ。もうひとつは、鶏肉に含まれる添加物である発色剤が、塩分に反応して赤く発色しているケースだ。これらはゆで時間に関わらず、赤色が残ってしまっているだけなので、食べても問題はない。中心部が白色なのに外側がまだらにピンクがかっていたり、中心部が薄茶色になっていたりする場合は、基本的には安全なサインだ。
安全に食べられるか確認する方法
一方で、鶏肉の外側が白色なのに中心部にかけて赤色やピンク色が強い場合は、火が通っていないことが考えられる。中までしっかりと火がとおっているかどうかは、中心温度計で確認するのが安全な方法だ。また、肉汁の色で見分けることもできるだろう。キッチンペーパーの上に鶏肉を置いて、指で強く押してみると、出てくる肉汁の色が分かりやすい。透明であればよいが、赤色の肉汁が出ているときは再加熱が必要だ。鶏肉をお湯で再加熱する際は、下味を逃がさないように保存袋に入れ、余熱でさらに10分程度のゆで時間を目安に設定するとよい。
4. ゆで時間だけじゃない!安全な鶏肉料理のコツ

鶏肉の食中毒の主な原因はカンピロバクターであることを説明したが、とくに余熱を使った低温調理の際は注意が必要だ。ゆで時間が十分でなかったり、完全に火がとおる前にゆで汁が冷めたりすると菌を増殖させてしまう恐れがある。また、生肉を下処理する際に使う道具の取り扱いにも気をつけたい。
道具も殺菌する
食中毒を防ぐためには、そもそも調理器具を清潔に保つ必要がある。使用前には道具が清潔な状態かどうかを確認しよう。また、生の鶏肉を切ったあとは、道具に菌が付着してしまうため、必ず包丁やまな板を除菌しよう。食器用洗剤でもある程度の除菌はできるといわれているが、より確実に菌を死滅させるには85度以上の熱湯を1分以上道具に直接かけるか、つけおきすることが望ましい。(※3)
ゆでた後の保存温度
ゆでた後の鶏肉は、余熱でしばらく置いておくことでしっとりとした食感になるのだが、冷ますときに菌が発生しやすいということも覚えておこう。具体的にはお湯の温度が30~40度になると最も菌が繁殖しやすいといわれている。ゆで汁の温度をキープすることが大切だ。鍋の保温性にもよるが、室温が低いとお湯が早く冷めてしまうので、保温性の高い鋳鉄鍋を使うなど、季節や環境に応じた工夫が必要である。
結論
鶏肉を調理する際の注意事項や、しっとりとゆでるコツを紹介した。バリエーションに富んだ家庭料理にも、時にはダイエット食としても、私たちの食生活に欠かせない鶏肉料理。温度やゆで時間に十分注意しながら、安全に美味しく食べてもらいたい。
(参考文献)
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