1. 熟成魚をつくるエイジングシートとは
熟成とは、たんぱく質が空気中に浮遊する「ヘリコスチラム菌」によって分解され、アミノ酸が増えることで旨みがアップするという調理法である。
しかし、この熟成は自然任せであり、コントロールが効かない。さらには危険な菌が付着する場合もある。
そこで、明治大学農学部とベンチャー企業のミートエポック社が共同開発したのが、2018年11月に商品化した「エイジングシート」という布である。
「ヘリコスチラム菌」だけを付着させたエイジングシートを巻き付けると、外の菌が入ってくるのを防ぐことになり、腐らせることなく短期間でたんぱく質の熟成をかなえる。
2. 熟成魚とはどんなもの?
熟成魚は、エイジングシートの開発者が、肉に使えるなら魚にも使えるはずと開発を進めたものである。
ヘリコスチラム菌は、表面からは入らず、切り口から入る。そのため、熟成魚をつくるときは、魚の腹を割き、内臓を取り出して、そこにエイジングシートを貼るイメージだ。
ふつう魚は数日で酸化の臭いがしはじめるが、エイジングシートに包んで3週間ほど寝かした魚は、ミルクやナッツのような香りがして旨味が増す。とくにマグロやブリなどの大きな魚、さらにサーモンも含めた脂が多い魚は熟成するのに向いている。脂の口溶けがよくなり、味が濃縮される。
3. 本当に熟成魚は最近はじまった技術なのか
そうではない。昔から、大きな魚は寝かせたほうが美味しいと言われていた。
さらにへしこ、づけ、昆布締め、鮒寿司といったものも熟成魚の一種となる。
また、そのように本格的に熟成させなくても、穫れたての魚ではなく、少しおいたものを食べるという話を聞いたことがある人もいるだろう。魚は釣られるまえに、逃げようとして暴れることが多い。そうすると、乳酸が溜まった魚からは酸味を感じやすいのだという。赤身魚であればなおさらそれが起こりやすいのだそう。
魚は死んだ直後は、硬直していて硬くなっているというのも、穫れたてが推奨されない理由のひとつである。さらに、魚は死後時間が経つほどに、つまり寝かせるほどに旨味成分のイノシン酸が増える。
魚のプロのなかには、下処理をしたあとに、塩をたっぷり振り、高温型の冷蔵庫に入れて発酵させるなどといったテクニックを使っている人もいる。
熟成魚は一歩間違えると、腐敗した魚になってしまう。ネットで調べると、魚を熟成させる方法なども載っているが、失敗する可能性だけでなく、食中毒になる可能性も秘めている。
たとえば白身の場合、食べごろのサインは、やや飴色になっていることなのだそうだ。くすみがみられたら、熟成が進みすぎているということになる。かなり難しいと感じるのではないだろうか。
とくに素人では、それがうまく熟成されているのか、食べてみる前に見分けることが簡単ではないだろう。非常に注意が必要であるので、プロの手による熟成魚を食することが安心なのではないだろうか。
結論
熟成魚が日本に昔からあるものと聞くと、家でも作ってみようかと考える人もいるかもしれない。しょうゆのヅケや昆布締めならまだいいとして、より長期の熟成となると食べるべき最高のタイミングなど、なかなか見極めが難しい。熟成肉だって、家庭で作ろうとする人はそれほどいないはずだ。同じように熟成魚もプロに任せることが正解だと思われる。まずは、熟成魚の見た目の違いを理解すること、うまみをよく見極められる舌づくりからはじめよう。