1. ムベとはどんな果樹?

野生化して自由に生えており、各地で呼び方が違う。方言で呼ばれることも多いようだ。品種名はわざわざないが、果実の色・大きさ・形などでさまざまな種類がある。
アケビによく似たツル植物
秋になると野山に見られるアケビとよく似ている。同じアケビ科のためしばしば混同されるが、違う植物である。アケビは熟すとバナナ型の実がぱっくりと割れるが、ムベの実はアケビより寸詰まりのコロンとした球形で、実も割れない。熟すと赤紫になる。昔は食用として食べていたようだが、アケビ同様に今ではもっぱら観賞用である。
害虫が来ないので育てやすい
ムベは庭のある家で観賞用として育てられていることがある。アケビは冬になると葉が枯れ落ちるのだが、ムベは冬でも緑が楽しめる常緑樹だ。白い花がたくさん咲くのも見事である。ツルが伸びるため、棚を作ると立派に育つ。アケビは実が露出するので害虫が寄ってくるのだが、ムベはそれがないので育てやすいのだそうだ。
2. 伝説が多い縁起物

ムベはその名の由来に言い伝えがあり、あくまで伝説の範囲だが「無病長寿の果実」として有名である。葉の付き方もおめでたい縁起物だ。
天智天皇のお言葉
言い伝えでは、天智天皇(621~671年)が狩りの途中、現在の近江八幡市北津田町に立ち寄った。そこでなんと8人もの息子がいる元気な老夫婦に出会い、元気の秘訣を聞いた。すると夫婦は「この地で秋に採れる無病長寿の果物を食べるからだ」と、ムベの実を差し出した。天智天皇は果実を食べ、「むべなるかな(そのとおりだな)」と答えたので、このお言葉がそのまま名前になったという。
七五三にも縁がある
ムベのおめでたい言い伝えはまだある。ムベは小さな幼木の時の葉が3枚、その後5枚、果実をつけるような成木で7枚の葉をつける。ツルが伸びるのも早く、その順調に育つ様子や、3・5・7枚と葉が増えることから、子どもの健やかな成長を願う七五三の縁起木となっている。果実だけでなく、樹木全体がおめでたいことに縁のある植物なのだ。
3. 復活した皇室献上

関東以西の温暖な地域に自生しているムベ。天智天皇の伝説がある滋賀県近江八幡市では、現在果樹園が運営されている。
平成の世に復活
天智天皇の訪れがあって以降、八幡市北津田町は毎年秋になると住民から皇室へムベの実の献上が行われてきた。平安時代の法律集「延喜式」にムベの献上記録も残っている。昭和57年に献上が一度途絶えたが、せっかくのおめでたい献上を復活させようと地元が奮起し、栽培を開始。同市の大嶋奥津嶋神社の宮司らが、平成14年から約20年ぶりにムベの皇室献上を再開し、以降毎年続けている。
ムベの実で地域活性
ムベを栽培している果樹園では、毎年晩秋になるとムベの実狩りも開催している。皇室への献上復活がメディアに取り上げられたことなどから話題となり、ムベの実にも注目が集まった。実際にムベの実を見てみたい、食べてみたいという人が増え、ムベ狩りが人気なのだそうだ。実際に無病長寿とはいかないが、縁起物として験担ぎに大人気で、地域の活性化にも役立っている。
結論
ムベもアケビも昔は野山で自由に採ることができ、子どものおやつになっていた。現代の子どもたちは食べ方を知らないことも多いが、皮は食べられず、中の白い果肉だけを食べる。ムベは自然には割れないため、二つに切って中の果肉を食べる。ゼリー状で小さな種がたくさん入っており、ほのかな甘みはあるが、なかなか食べにくい果肉だ。味を楽しむというよりも、縁起物として頂くのがいいようである。