1. とても細かい十段階
日本でもっとも有名なのは基本の焼き方である「レア」「ミディアム」「ウェルダン」だろう。英語による焼き加減は十段階あり、それぞれ実に微妙な設定がされている。
ロー(raw)
まったくの生状態。日本で禁止されたユッケやレバ刺しがこれにあたる。現状では日本でこのオーダー方法はできない。
ブルー(blue)
ほぼ生。数秒焼いただけだ。日本ではこれもオーダーできないが、アメリカではブルーの焼き加減も人気だそうだ。
ブルーレア(blue rare)
肉の表面を数十秒ずつ焼いただけ。色的にはかなり赤い。
レア(rare)
表面は焼けているが中は生の状態。しかし、ブルーレアに比べて中心温度が55~65度程度にはなる。実は食中毒菌は60度前後で死滅し、65度以上になるとたんぱく質が熱変性を始める。このため、生っぽさを残しつつ衛生管理をする最低限のラインで、専門店ではこのわずか5度の絶妙な管理をしているわけだ。
ミディアムレア(medium rare)
レアよりは焼けているが、中心がやや生の状態。中心温度は約65度。肉汁がにじみ出る程度だ。
ミディアム(medium)
完全に火が通っているものの、中はピンク色。
ウェル(well)
かなりしっかり焼けているがジューシーさを感じられるギリギリの焼き加減。
ウェルダン(well done)
絶対に生焼けが嫌な人むきの、肉汁がまったく出ない焼き加減。肉の弾力もない状態になる。
ベリーウェルダン(berry well done)
ちょっと表面が焦げていることもあるくらい、本気の固焼き。噛み切りやすいが固さも出る。
2. ミディアムレアの科学
では、好みはさておき一番美味しいのはどの焼き方なのだろう。
答えはミディアムレアだ。これにはきちんと理由がある。
答えはミディアムレアだ。これにはきちんと理由がある。
温度の秘密
肉のたんぱく質は65度以上で変性を始めるが、あまり低くても旨みが肉の外へ出ない。旨みのもとである肉汁だが、レアでは肉汁が出ないのだ。よく焼きすぎると肉汁が外へ流れ出してしまうし、たんぱく質も焼き固まってしまうので、ミディアムレアが一番肉汁を味わえる。また、肉の脂身は40~55度くらいで溶けるのだが、ミディアムレアはちょうど口の中で脂が溶け出す仕上がりなのである。
メイラード反応
肉表面の茶色いコゲは「メラノイジン」という。加熱することで糖とアミノ酸がおこす「メイラード反応」で出来る物質で、これが程よいとコクが増す。多すぎると焦げ臭くなるので、メラノイジンが程よく出来るくらいに焼くミディアムレアが一番美味しく感じるというわけだ。
3. 自宅で美味しく焼く方法
ステーキ肉を自宅で焼くのは大イベントだ。せっかくなら一番美味しく焼けるミディアムレアの焼き方をマスターしよう。
肉は室温に戻す
肉の中心温度が大切なので、焼く30分以上前には冷蔵庫から出して室温に戻しておこう。もし冷凍肉ならできれば前日のうちに冷蔵庫に移して解凍しておきたい。
下味つけは直前に
肉の中の水分は、メイラード反応や肉汁のもとになる。塩を早く振ってしまうと、浸透圧で肉の水分が抜けすぎてパサパサになってしまう。このため、塩コショウは焼く直前に振ろう。
よく熱したフライパンで
中温までが適温のテフロンではなく、高温対応できる鉄のフライパンが一番だ。煙が出るくらいよく熱して、強火で30秒、弱火で1分焼く。裏返したら、やはり強火30秒の後で弱火2分だ。レアに仕上げたい時は強火30秒のあと、弱火1分でいい。
結論
栄養を効率よくとることを考えると、肉の消化・吸収はレアの方が胃に負担をかけないようだ。加熱しすぎると固くなって消化しにくくなる。ロースやフィレはレア、バラはミディアムがむいている。もし鉄のフライパンがあるなら、ぜひ自宅ステーキに挑戦してみよう。