1. クーロンヌはドーナツ型のチーズ

クーロンヌは、片手の手のひらにのるほどの大きさのドーナツ型で、灰とカビを纏ったチーズだ。フランス、アンドル・エ・ロワール県にある、ロッシュ。ここには歴史的観光名所ロッシュ城がある。ジャンヌ・ダルクが後のシャルル7世の元に駆け付け、即位を決意させた史実のある城といえば、なんとなく想像がつくだろうか。その城のほど近くの農場で、山羊ミルクを使ったチーズ、クーロンヌが生まれた。じつはこのチーズは比較的最近生まれたチーズなのである。
山羊ミルクは脂肪分が少なく、チーズにするとほろほろとした食感になる。それはそれで美味しいが、大きなサイズのものを作るのは難しく、型にはめて小さいサイズのものをつくる。そのため、場所や種類によってさまざまな形のチーズが生まれる。その中でも、ドーナツ型のチーズは珍しい。
クーロンヌを生み出した農家は、もともとはサント・モール・ド・トゥレーヌという、クーロンヌ同様に灰をまぶして熟成させるチーズを生産していた。円柱形で真ん中に麦わらを1本通すことによって型崩れを防ぎ、麦わらを通して内側に空気を運ぶ、特徴的なチーズである。クーロンヌのドーナツ型は麦わらよりも直接的に空気を通すため、乾きが早く、熟成を促す形といえるだろう。珍しく同型のものに「ルエル」という、南フランスで作られているチーズもある。
2. 灰をまぶしたチーズ、クーロンヌ

クーロンヌはドーナツ型をした、灰をまぶして熟成させるチーズである。グレイがかった円形のそれは、一見チーズには見えず、形と相まってまるで石器時代の石のお金のような印象がある。この灰は、フランス語で「サンドレ」と呼ばれるアルカリ性の木炭のことである。酸性のチーズの酸っぱさを中和し、まろやかな味わいを作り出す。ほかにもサンドレは、乾燥や熟成を促すときに、急激な水分の蒸発を防ぐ。これによってキメの細かい生地になる。また不要なカビを退け、熟成に役立つカビを守ってくれる。作りたてのクーロンヌは、最初はサンドレのため黒っぽい色合いだが、熟成が進むにつれてカビが覆っていき、グレイがかった王冠になる。このころが一番の食べごろだ。
山羊のミルクを使ったチーズは、独特のさわやかな酸味がある。クーロンヌは、熟成度合いによって味わいに違いがでるチーズで、フレッシュなうちは酸味が強いが、熟成が進むにつれ酸味が薄れコクが増していく。また山羊ミルクのチーズは乳脂肪が少ないため、熟成するとほろほろとした食感になりがちだが、クーロンヌはサンドレによって必要以上の水分の蒸発が防がれ、繁殖したカビが内側をとろけさせるのだ。口当たりはキメが細かく、非常にクリーミー。常温のほうがより舌ざわりを楽しむことができるため、食べる前に保存庫や冷蔵庫から出しておくのがおすすめだ。しかし、山羊ミルクを使ったチーズには独特の香りがあるため、好き嫌いがはっきりと出る。クーロンヌは1つ170gと手のひらサイズなので、山羊ミルクチーズを試してみたい人たちで集まり、試しに食べてみるのにいいサイズ感である。
3. M.O.F熟成士おすすめのチーズ

クーロンヌが世に出て名が知れるようになったのは、生産農家の努力と、M.O.F熟成士の目に留まったことも理由の1つに挙げられる。
チーズの熟成士とは
フランスにはチーズ熟成士という職業がある。チーズ熟成士はチーズの熟成のスペシャリストであり、チーズの本場フランスでは尊敬されるべき職業として地位を築いている。
チーズ熟成士は、グリーンチーズと呼ばれる熟成前のチーズや熟成の浅いチーズを仕入れ、自らの納得するチーズへと熟成させ仕上げる職人である。その名の通りの熟成専門の職人であるが、品質の高いチーズを探すため自ら農家へも足を運び、味だけでなく、そのチーズの持つ背景や目指す熟成に耐えることができるかの選別も行う。
また、ただ熟成させるだけではなく、特別な酒で洗ったりハーブやスパイスを加えたり、感性でアレンジを施していくためのセンス、知識、そして経験が問われる職業なのである。
チーズ熟成士は、グリーンチーズと呼ばれる熟成前のチーズや熟成の浅いチーズを仕入れ、自らの納得するチーズへと熟成させ仕上げる職人である。その名の通りの熟成専門の職人であるが、品質の高いチーズを探すため自ら農家へも足を運び、味だけでなく、そのチーズの持つ背景や目指す熟成に耐えることができるかの選別も行う。
また、ただ熟成させるだけではなく、特別な酒で洗ったりハーブやスパイスを加えたり、感性でアレンジを施していくためのセンス、知識、そして経験が問われる職業なのである。
とくに、M.O.Fという称号を持つ熟成士は、日本なら人間国宝にも相当するだろう。M.O.Fとは、「MEILLEUR OUVRIER DE FRANCE(フランス国家の最も優秀な技術を持つ職人たち)」の略であり、この称号は非常に重いものとされる。M.O.Fという称号は、チーズだけでなく、料理、洋菓子、刺繍、ガラス加工など多岐に渡る。また、クーロンヌの中には、「Maître artisan fromager affineur(チーズ熟成士の巨匠)」という称号をフランス労働省から世界中でただひとり与えられた熟成士が手掛けたものも存在した。
結論
余談だが、フランス語でサンドリヨン(Cendrillon)というと「灰かぶり」、すなわちシンデレラを意味する。姫も灰でコーティングされている間、腐ることなく美しく聡明な女性に成熟したのである。サンドリヨンというフランス人作曲家のオペラもある。クーロンヌ片手にDVDでオペラ鑑賞などはいかがだろうか。
この記事もCheck!
- チーズタッカルビは美味しい・低カロリー・高栄養価だった!?
- 【チーズ】の奥深い世界。チーズにまつわる豆知識いくつ知ってる?
- ぶどう色が美しいスペインチーズ【ケソ・デ・ムルシア・アル・ビノ】
- 意外と簡単!?チーズタッカルビの作り方のポイント
- 真っ黒がポイント!?注目の【バスクチーズケーキ】の基礎知識
- ティラミスでお馴染みのチーズ【マスカルポーネチーズ】とは
- 入手困難?幻のチーズ【ブッラータ】ってどんなチーズ?
- 【ラクレットチーズ】の魅力とは?トロ~リ溶けた姿が食欲をそそる
- 【パルミジャーノ・レッジャーノ】ってどんなチーズ?特徴を解説
- 水牛乳製ウォッシュチーズ【クアドレッロ・ディ・ブーファラ】とは?